After Effectsの描画モード「不透明度を調整するグループ」を徹底解説!ステンシル・シルエットで自由な合成を

After Effects(アフターエフェクツ)における描画モードは、複数のレイヤーを合成し、視覚的な効果を生み出すための強力な機能です。特に「不透明度を調整するグループ」に属する描画モードは、レイヤーの透明度や輝度情報を活用して、複雑な切り抜きや合成を直感的に行えるため、動画クリエイターにとって必須の知識と言えるでしょう。

このグループの描画モードは、上のレイヤーのアルファチャンネル情報や輝度情報を元に、下のレイヤーの不透明度をコントロールします。これにより、特定の形状で映像を切り抜いたり、光の加減で透明度を変化させたりといった、多彩な表現が可能になります。

After Effectsの描画モードは、PhotoshopなどのAdobe製品と共通の概念が多く、一度理解すれば他のソフトでも応用が利きます。特に「不透明度を調整するグループ」は、映像の合成やデザインの幅を大きく広げる鍵となります。

この描画モードを使いこなすことで、あなたの映像表現は格段にレベルアップするでしょう。本記事では、その基本から実践的な活用方法、さらにはよく混同されるトラックマットとの違いまで、プロの視点から徹底的に解説します。

描画モードの基本概念:アルファとルミナンスを徹底理解

「不透明度を調整するグループ」の描画モードを使いこなす上で、まず理解すべきは「アルファ」と「ルミナンス」という二つの概念です。これらは、レイヤーのどの情報に基づいて不透明度をコントロールするかを決定します。

アルファ(Alpha)とは?透明度を司る「見えないマスク」

  • アルファチャンネルとは: 画像や映像の透明度情報を格納しているチャンネルのことです。通常、RGB(赤、緑、青)の3つのチャンネルで色情報が表現されますが、アルファチャンネルは「どこが透明で、どこが不透明か」という情報を白黒の濃淡で表現します。白は完全に不透明、黒は完全に透明、グレーはその中間の半透明を示します。
  • 活用例: ロゴ画像や切り抜かれた人物の素材には、このアルファチャンネルが含まれています。例えば、背景が透明なPNG画像や、After Effectsで作成したシェイプレイヤーには、このアルファチャンネル情報が自動的に付与されています。

ルミナンス(Luminance)とは?輝度情報で切り抜く

  • 輝度情報とは: レイヤーの「明るさ」の情報、つまり輝度を指します。これは、アルファチャンネルのように透明度を直接定義するものではなく、画像そのものの白黒の濃淡を利用します。一般的に、白い部分は明るく、黒い部分は暗いと判断され、この明るさの度合いに応じて不透明度が調整されます。
  • 活用例: アルファチャンネルを持たない一般的な写真や映像素材でも、この輝度情報を使って切り抜きや合成が可能です。例えば、白黒のテクスチャ素材や、光の明滅を表現した映像など、コントラストがはっきりしている素材で特に効果を発揮します。
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アルファチャンネルは、レイヤーの透明な部分を定義する「見えないマスク」のようなものです。一方、ルミナンスは、レイヤーの「明るさ」を基準にするため、白黒のコントラストがはっきりしている素材で特に効果を発揮します。

ステンシルとシルエット:効果の反転を使いこなす

「不透明度を調整するグループ」には、以下の4つの描画モードがあります。

これらのモードは、「ステンシル」と「シルエット」という対になる概念と、「アルファ」と「ルミナンス」の組み合わせで構成されています。

ステンシル描画モードの仕組みと効果(型抜き・切り抜き)

ステンシル描画モードは、上のレイヤーのアルファチャンネルまたは輝度情報に基づいて、その下の**すべてのレイヤーを切り抜く(透過させる)**効果を持ちます。例えるなら、クッキーの型抜きのように、上のレイヤーの形に下のレイヤーが見えるようになります。

  • ステンシルアルファ: 上のレイヤーのアルファチャンネル情報(透明度)を利用して、下のレイヤーを切り抜きます。上のレイヤーの不透明な部分(白)が下のレイヤーを表示し、透明な部分(黒)が下のレイヤーを非表示にします。
  • ステンシルルミナンスキー: 上のレイヤーの輝度情報(明るさ)を利用して、下のレイヤーを切り抜きます。上のレイヤーの明るい部分が下のレイヤーを表示し、暗い部分が下のレイヤーを非表示にします。

シルエット描画モードの仕組みと効果(穴あけ・ステンシルの反転)

シルエット描画モードは、ステンシルとは逆に、上のレイヤーのアルファチャンネルまたは輝度情報に基づいて、その下の**すべてのレイヤーに穴を開ける(切り抜かれた部分以外を表示する)**効果を持ちます。

  • シルエットアルファ: 上のレイヤーのアルファチャンネル情報(透明度)を利用して、下のレイヤーに穴を開けます。上のレイヤーの不透明な部分(白)が下のレイヤーを非表示にし、透明な部分(黒)が下のレイヤーを表示します。
  • シルエットルミナンスキー: 上のレイヤーの輝度情報(明るさ)を利用して、下のレイヤーに穴を開けます。上のレイヤーの明るい部分が下のレイヤーを非表示にし、暗い部分が下のレイヤーを表示します。

ステンシルとシルエットは、効果が反転する関係にあります。ステンシルが「型抜き」なら、シルエットは「型抜きされた部分以外を表示」と考えると分かりやすいでしょう。どちらを使うかは、表現したい内容によって使い分けます。

【実践】各描画モードの具体的な効果と活用例

ここでは、アルファチャンネルを持たない白黒の素材と、アルファチャンネルを持つ素材を例に、各描画モードの合成結果を見ていきましょう。

合成例1:アルファチャンネルの無い素材の場合

アルファチャンネルを持たないキラキラと輝く白黒の素材に対して描画モードを適用します。

元画像:

合成後:

ステンシルアルファ(アルファの無い素材の為) ステンシルルミナンスキー
シルエットアルファ(アルファの無い素材の為) シルエットルミナンスキー(ステンシルルミナンスキーの反転)

この例では、アルファチャンネルを持たない素材(映像の四角形全域がアルファチャンネル100%)を使用しているため、ステンシルアルファとシルエットアルファは、それぞれ全表示と全消去という結果になっています。これは、アルファチャンネル情報が「不透明」であるため、切り抜きや穴あけの基準が機能しないためです。

一方、ステンシルルミナンスキーとシルエットルミナンスキーは、素材の輝度情報に基づいて効果が適用されています。キラキラとした明るい部分が切り抜かれたり、穴が開けられたりしているのが分かります。

合成例2:アルファチャンネルを持った素材の場合

次に、アルファチャンネルを持った白黒の画像を使って、ステンシルアルファやステンシルルミナンスキーを適用した場合を見てみましょう。

この画像は、黒い部分にアルファチャンネル(完全に透明)を持ち、白い部分は完全に不透明です。この場合、ステンシルアルファ(透明かどうか)でもルミナンス(輝度≒白黒の見た目)でも、同じように画像を切り抜くことができます。これは、アルファチャンネルと輝度情報がほぼ同じ形状を示しているためです。

合成例3:ステンシルルミナンスキーを使った切り抜き手順

アルファチャンネルの無い素材でも輝度情報を使って切り抜きができるステンシルルミナンスキーを使って、具体的な切り抜き手順を見てみましょう。

元画像:

レイヤーを配置

タイムラインパネルで、上にアルファチャンネルの無いキラキラとした白黒素材を配置し、その下にグラデーションレイヤーを配置します。

描画モードをステンシルルミナンスキーに変更

上のレイヤーの描画モードを「ステンシルルミナンスキー」に変更します。

切り抜き結果

上に配置して描画モードを変更したキラキラ素材のシルエットで、下のグラデーションレイヤーが切り抜かれました。

この描画モードの大きな特徴は、トラックマットでの切り抜き合成が2つのレイヤー間での切り抜きになるのに対し、ステンシルルミナンスキーなどの描画モードでは、**下にあるレイヤー全てを一括して切り抜き処理ができる**点です。

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描画モードは、タイムラインパネルの「モード」列から選択できます。もし「モード」列が見当たらない場合は、タイムラインパネルのヘッダー部分を右クリックし、「列」>「モード」を選択して表示させてください。

描画モードとトラックマットの違いを徹底比較

After Effectsでレイヤーの不透明度をコントロールする方法として、描画モードの他に「トラックマット」があります。これらは似たような効果をもたらしますが、その機能と適用範囲には決定的な違いがあります。

描画モード(ステンシル/シルエット) トラックマット
適用範囲:上のレイヤーが、その下にある「すべてのレイヤー」のマットとして機能する。 適用範囲:指定したレイヤーの「直下にあるレイヤー」のみに作用する。
レイヤー構造:マットとして機能するレイヤーの描画モードを変更する。 レイヤー構造:マットとして機能するレイヤーの直下のレイヤーの「トラックマット」設定を変更する。
メリット:複数のレイヤーを一括で切り抜きたい場合に非常に効率的。 メリット:特定のレイヤーのみに効果を適用したい場合に、意図しない影響を避けられる。
デメリット:適用範囲が広いため、意図しないレイヤーまで影響を受ける可能性がある。 デメリット:複数のレイヤーに同じ効果を適用したい場合、それぞれに設定が必要で手間がかかる。

どちらを選ぶべきか?判断基準

  • 複数のレイヤーをまとめて切り抜きたい、または穴を開けたい場合: ステンシル/シルエットの描画モードが適しています。例えば、背景全体にテクスチャを適用しつつ、特定の形状で切り抜きたい場合などに便利です。
  • 特定のレイヤーのみに切り抜きや透明度調整を適用したい場合: トラックマットが適しています。例えば、テキストレイヤーの形に動画を切り抜きたい場合や、特定のオブジェクトにだけエフェクトを適用したい場合などです。

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トラックマットは、レイヤーの親子関係のように、直下のレイヤーにのみ影響を与える「1対1」の関係です。一方、ステンシル/シルエット描画モードは、上のレイヤーが「親」となり、その下の「すべての子」に影響を与える「1対多」の関係と考えると、使い分けがイメージしやすいでしょう。


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プリコンポーズで描画モードの適用範囲を制御する

ステンシルやシルエットの描画モードは、その性質上、下のすべてのレイヤーに影響を与えます。しかし、特定のレイヤーグループにのみ効果を適用し、それ以外のレイヤーには影響を与えたくない場合もあります。このような場合に役立つのが「プリコンポーズ」機能です。

なぜプリコンポーズが必要なのか

例えば、背景レイヤーは切り抜きたくないのに、描画モードを適用すると背景まで消えてしまう、といったケースがあります。

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