After Effectsで映像表現の幅を広げる上で欠かせない機能の一つが「トラックマット」です。特に「アルファマット」は、Photoshopのレイヤーマスクやクリッピングマスクのように、特定の形状で映像を切り抜いたり、表示範囲を制御したりするために頻繁に利用されます。この機能は、テキストに動画を流し込んだり、複雑な図形の中に映像を埋め込んだりするなど、クリエイティブな表現を可能にします。
この記事では、After Effectsのアルファマットについて、その基本的な概念から具体的な使い方、さらには他の類似機能との違いや応用例まで、プロの動画クリエイターの視点から徹底的に解説します。この記事を読めば、アルファマットの仕組みを深く理解し、あなたの映像制作に自信を持って活用できるようになるでしょう。
After Effects「トラックマット」の基本を理解する
After Effectsにおける「トラックマット」とは、あるレイヤーの透明度や明るさの情報を利用して、そのすぐ下にある別のレイヤーの表示範囲を制御する機能です。これにより、複雑な形状での切り抜きや、動的なエフェクトを簡単に実現できます。例えば、テキストの形に沿って背景の映像を表示させたり、特定のオブジェクトだけを際立たせたりすることが可能です。トラックマットの対象となるレイヤーは、静止画、ビデオ、グラフィック、テキスト、シェイプなど多岐にわたります。
トラックマットは、単にレイヤーを切り抜くだけでなく、動きのある映像素材と組み合わせることで、よりダイナミックで魅力的なアニメーションを生み出す強力なツールとなります。
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アルファチャンネルとアルファマットの基本概念
「アルファ」とは、画像や映像の「透明度」を定義する「アルファチャンネル」という情報のことです。アルファチャンネルは、RGB(赤、緑、青)の各色情報とは別に、ピクセルごとの透明度を0%から100%で保持しています。
アルファマットは、このアルファチャンネルの情報を利用して、レイヤーの不透明度をコントロールする機能です。具体的には、マットとして使用するレイヤーのアルファチャンネルにおいて、以下のルールで下のレイヤーの表示・非表示を決定します。
- 白い部分(アルファ100%):下のレイヤーが表示されます。
- 黒い部分(アルファ0%):下のレイヤーが切り取られ、透明になります。
- グレーの部分(アルファ0%~100%):下のレイヤーが半透明で表示されます。
アルファマットは、2つのレイヤーを上下に組み合わせて利用するのが基本です。

アルファマットでは、マットとして使うレイヤーの色自体は関係ありません。重要なのはそのレイヤーの「透明度情報」です。
アルファマットとルミナンスマット:違いと使い分け
トラックマットには「アルファマット」の他に「ルミナンスマット」という種類もあります。これらは似ていますが、参照する情報が異なります。
ルミナンスマットは、マットとして使用するレイヤーの「明るさ(輝度)」を基準にして、下のレイヤーの表示・非表示を制御します。
- 明るい部分(白に近い):下のレイヤーが表示されます。
- 暗い部分(黒に近い):下のレイヤーが切り取られ、透明になります。
この違いを理解することで、より表現の幅が広がります。
マットの種類 | 参照する情報 | 表示される部分 | 主な用途 |
---|---|---|---|
アルファマット | 透明度(アルファチャンネル) | マットレイヤーの不透明な部分 | テキストや図形での正確な切り抜き、ロゴアニメーション |
ルミナンスマット | 明るさ(輝度) | マットレイヤーの明るい部分 | グラデーションや光の表現、ソフトな切り抜き、映像の質感調整 |
また、それぞれに「反転」オプションがあり、効果を逆転させることができます。例えば「アルファ反転マット」は、マットレイヤーの透明な部分が下のレイヤーを表示し、不透明な部分が切り取られます。

どちらのマットも「反転」オプションを活用することで、表現の幅が大きく広がります。特にルミナンスマットは、白黒のグラデーションをマットに使うことで、徐々に現れるような効果も作れます。
After Effectsでアルファマットを適用する手順
After Effectsでアルファマットを適用する具体的な手順を見ていきましょう。非常にシンプルですが、レイヤーの順序が重要になります。
1. アルファマット用のレイヤーを用意
まず、アルファマットとして利用するレイヤーを用意します。これは、切り抜きの「型」となるレイヤーです。テキスト、シェイプレイヤー、または透明度情報を持つ画像など、様々なものが利用できます。 ここでは、以下のテキストレイヤーを例に説明します。テキスト以外の領域は完全に透明な領域です。
2. 切り抜きたいレイヤーを用意
次に、アルファマットを適用して任意の形で切り抜きたいレイヤーを用意します。これが「中身」となるレイヤーです。動画素材、画像、または別のコンポジションなど、何でも構いません。 ここではパーティクルをデザインした画像レイヤーを配置しています。
3. レイヤー順序の整理
アルファマットを適用する場合、レイヤーの上下の順序が非常に重要です。必ず、マットとして利用するレイヤーを上に、切り抜きたい元のソースレイヤーを下に配置します。
- 上にマットとして利用するレイヤーを配置
- 下に切り抜きたい元のソースレイヤーを配置
テキストレイヤーが上に、下に切り抜きを行いたいレイヤーを配置しています。
4. トラックマットのメニューを表示
タイムラインパネルに「モード」列が表示されていない場合は、キーボードの[F4]キーを押すか、タイムラインパネル下部にある「スイッチ/モード」ボタンをクリックして表示を切り替えます。この列にトラックマットのメニューがあります。
5. トラックマットを適用する
下に配置したレイヤー(切り抜きたいレイヤー)の「トラックマット」メニューから「アルファマット」を指定します。
6. 上のレイヤーは非表示になります
トラックマットを適用すると、マットとして利用する上のレイヤーの目玉マークが自動的に消え、非表示になります。これは正常な動作であり、上のレイヤーが非表示になっても、そのアルファチャンネル情報は下のレイヤーに適用され続けています。また、下のレイヤー名の左にトラックマットが設定されたことを示すアイコンが表示されます。
7. トラックマットによって切り抜かれました
アルファチャンネル(透明度の情報)を使ってトラックマットを設定したことによって、下のレイヤーが上のレイヤーの形に正確に切り抜かれました。
アルファ反転マットは、逆の結果になります
「アルファ反転マット」を適用すると、アルファマットと同じくアルファチャンネルの情報を使った切り抜きが行われますが、白い部分と黒い部分(透明な領域)とで効果が反転します。つまり、マットレイヤーの透明な部分が下のレイヤーを表示し、不透明な部分が切り取られます。

トラックマットは、マットレイヤーを動かしたりアニメーションさせたりすると、下のレイヤーもそれに合わせて動的に切り抜かれます。これがマスクとの大きな違いで、より複雑なアニメーション表現を可能にします。
トラックマットと類似機能の比較:最適な使い分け
After Effectsには、トラックマット以外にもレイヤーの表示範囲を制御する機能がいくつかあります。それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることが重要です。
マスクとの違い
トラックマットとマスクはどちらもレイヤーの一部を隠したり表示したりする機能ですが、そのアプローチが異なります。
- トラックマット:「別のレイヤー」のアルファチャンネルや輝度情報を使って、下のレイヤーの透明度を制御します。これにより、複雑な透明度の制御や、動的なエフェクト作成に非常に便利です。影響はマットレイヤーと対象レイヤーの2つに限定されます。
- マスク:レイヤーに「直接描画」して、特定部分を表示または隠します。ペンツールやシェイプツールで直接形を描くため、シンプルな形状の切り抜きや、特定部分へのエフェクト適用に適しています。 Photoshopでいう「レイヤーマスク」や「クリッピングマスク」に似た機能と考えると理解しやすいでしょう。
マスクはレイヤーに直接適用されるため、後からマスクの形を調整する手間がかかる場合があります。一方、トラックマットは別のレイヤーを編集するだけで済むため、より柔軟な編集が可能です。
描画モード(ステンシルアルファ/シルエットアルファ)との違い