After Effectsでアニメーションに自然な揺れや不規則な動きを加えたい時、手作業でキーフレームを打つのは非常に手間がかかります。そんな時に役立つのが、After Effectsに標準搭載されている「ウィグラー」パネルと、より柔軟な制御が可能な「wiggleエクスプレッション」です。これらを使いこなすことで、カメラのブレ、光の点滅、オブジェクトの振動など、リアルでダイナミックな表現を効率的に作成できます。
この記事では、プロの動画クリエイターが実践するウィグラーパネルとwiggleエクスプレッションの基本的な使い方から、それぞれの特徴、応用テクニック、そして最適な使い分けまでを徹底的に解説します。あなたのAfter Effectsスキルを次のレベルへと引き上げ、表現の幅を広げるためのヒントが満載です。
After Effectsアニメーションに命を吹き込む「ウィグラーパネル」
ウィグラーパネルは、After Effectsで既に設定されている2つ以上のキーフレーム間に、自動でランダムな値のキーフレームを生成する機能です。これにより、手動では再現が難しい不規則な動きを簡単に作り出すことができます。特に、レイヤーのブレや光の点滅といった、連続的かつ予測不能な変化を表現する際にその真価を発揮します。
動画テンプレートなら編集も簡単
無料でも使えるのに、使わないのはもったいないかも。今すぐダウンロード。
ウィグラーパネルの活用事例:リアルな動きを効率的に
ウィグラーパネルは、様々なプロパティに適用することで、多岐にわたるアニメーション表現を可能にします。
例1:レイヤーの位置をランダムに動かす
位置プロパティにウィグラーを適用することで、レイヤーをランダムに揺らすことができます。例えば、カメラレイヤーに適用すれば、手持ちカメラのような自然なブレを簡単に表現可能です。 モーションブラーと組み合わせることで、より臨場感のあるタイトルアニメーションやモーショングラフィックスを作成できます。
例2:不透明度を使った点滅の表現
不透明度プロパティにウィグラーを適用すれば、レイヤーが点滅しているような表現も作成できます。光の明滅や、グリッチエフェクトの一部として利用するなど、視覚的なインパクトを与える際に非常に効果的です。 露出エフェクトやレベルエフェクトなど、他のエフェクトと組み合わせることで、さらに多様な点滅アニメーションが可能です。

ウィグラーは、位置、回転、スケール、不透明度といった基本的なプロパティだけでなく、エフェクトのパラメータ(例:ブラーの量、色の変化)にも適用できます。様々なプロパティで試して、表現の可能性を探ってみましょう。
ウィグラーパネルの適用手順:直感的な操作でランダムな動きを
ここでは、位置プロパティのキーフレームにウィグラーを適用し、レイヤーをランダムに動かす具体的な手順を解説します。
1. キーフレームを2つ以上打ちます
ウィグラーは、既存のキーフレーム間にランダムな動きを生成するため、最低でも2つ以上のキーフレームが必要です。 全く同じ値のキーフレームでも問題ありません。アニメーションを開始したい点と終了したい点にキーフレームを設定しましょう。
2. 2つ以上のキーフレームを選択します
ウィグラーを適用したいキーフレームをすべて選択します。プロパティ名をクリックすると、そのプロパティのすべてのキーフレームを選択できます。
3. ウィグラーパネルの表示
メニューバーから「ウィンドウ」>「ウィグラー」を選択すると、ウィグラーパネルが表示されます。
ウィグラーパネルの設定項目を徹底解説
ウィグラーパネルには、ランダムな動きを細かく制御するための設定項目があります。それぞれの意味を理解することで、より意図したアニメーションを作成できます。
項目名 | 説明 |
---|---|
適用先 (Apply To) |
After Effects CC2019以降の新しいバージョンでは、選択したプロパティに応じて自動で適切な方が選択されるため、あまり意識する必要はありません。 |
ノイズの種類 (Noise Type) |
|
次元 (Dimensions) |
位置プロパティなど、複数の次元を持つプロパティにのみ表示されます。
|
周波数 (Frequency) | 1秒間に何回キーフレームを生成し、値を変化させるかを示す値です。値が大きいほど、動きが速く、細かくなります。 例えば「1」と入力すれば1秒間に1回キーフレームが挿入されます。 |
量 (Magnitude) | 影響を与える変化の量(振幅)を示す値です。値が大きいほど、変化量が大きくなり、動きの範囲が広がります。 値が小さいほど、変化量は小さく、動きの範囲も狭くなります。
ワンポイントアドバイス:「量」の最適な値は、適用するプロパティによって大きく異なります。例えば、不透明度(0~100%)に「量:2000」を適用しても、実際に変化するのは0~100の範囲内です。プロパティの最大値・最小値を考慮し、プレビューしながら最適な値を見つけることが重要です。 |
実践!ウィグラーパネルを使ったアニメーション作成
実際にウィグラーパネルを使って、アニメーションを作成してみましょう。
設定例1:位置プロパティへのウィグラー適用
2つ以上のキーフレームを選択したら、ウィグラーパネルから以下の設定で適用してみましょう。
- 適用先:空間パス
- ノイズの種類:スムーズ
- 次元:全次元個別に
- 周波数:1/秒(1秒間に1回)
- 量:200(適用する量)
設定ができたら「適用」を押してウィグラーを適用します。
ウィグラーの適用後プレビュー
1秒ごとに1回、位置座標がランダムに変化しているのを確認できます。
設定例2:不透明度プロパティへのウィグラー適用(点滅アニメーション)
次に、同じレイヤーの不透明度プロパティにウィグラーを適用して、点滅するアニメーションを作成します。
不透明度のキーフレームを2つ選択します
不透明度プロパティにもキーフレームを2つ打ち、それらすべてを選択してウィグラーを適用します。
設定内容
今回は不透明度プロパティへのウィグラー適用するため、適用先の項目が「時間グラフ」に変わります。以下の設定で適用してみます。
- 適用先:時間グラフ
- ノイズの種類:ギザギザ
- 次元:空欄(選択自体ができない)
- 周波数:5/秒(1秒間に5回で細かく変化させます)
- 量:2000(大きければ大きいほど影響力が増します)
ウィグラーの適用後
1秒間に5回で細かく変化するウィグラーを適用したので、たくさんのキーフレームが挿入されているのを確認できます。
プレビュー
「量」を2000としたのは、不透明度が完全に0となる値(完全に消える)まで変化させたかったためです。最適な「量」の値は、適用するプロパティや表現したい効果によって異なるため、常にプレビューしながら調整することが重要です。
もう一つの強力なツール:「wiggle()」エクスプレッション
After Effectsでランダムな動きを作成する方法は、ウィグラーパネルだけではありません。「wiggle()」エクスプレッションは、より柔軟で強力なツールとして、多くのプロクリエイターに利用されています。
wiggleエクスプレッションとは?
wiggleエクスプレッションは、キーフレームを打つことなく、プロパティに連続的かつ不規則な動きを自動で生成するスクリプトです。 これにより、手動でのキーフレーム設定の手間を大幅に削減し、より自然で有機的なアニメーションを実現します。
基本的な書式とパラメータ
wiggleエクスプレッションの基本的な書式は wiggle(frequency, amplitude)
です。
- frequency (周波数): 1秒間にプロパティがどれくらいの頻度で変化するかを決定します。値が大きいほど、動きが速く、細かくなります。
- amplitude (振幅/量): プロパティの値がどれくらいの範囲で変化するかを決定します。値が大きいほど、動きの幅が大きくなります。
例えば、wiggle(5, 50)
と記述すると、1秒間に5回、元の値から±50の範囲でランダムに値が変化します。
wiggleエクスプレッションの適用方法
- ランダムな動きを適用したいレイヤーのプロパティ(例:位置、不透明度)を表示します。
- プロパティ名の左にあるストップウォッチアイコンをAltキー(Macの場合はOptionキー)を押しながらクリックします。
- タイムラインパネルにエクスプレッション入力欄が表示されるので、そこに
wiggle(frequency, amplitude)
の書式で値を入力します。 - 入力後、別の場所をクリックするか、Enterキーを押すとエクスプレッションが適用されます。
ウィグラーパネルとwiggleエクスプレッションの比較と使い分け
ウィグラーパネルとwiggleエクスプレッションは、どちらもランダムな動きを作成しますが、いくつかの重要な違いがあります。これらの違いを理解することで、プロジェクトに最適なツールを選択できます。
項目 | ウィグラーパネル | wiggleエクスプレッション |
---|---|---|
キーフレームの有無 | 適用には最低2つのキーフレームが必須。既存のキーフレーム間に新しいキーフレームを生成。 | キーフレームがなくても連続的なランダムな動きを生成可能。 |
柔軟性・再編集性 | パネルのGUIで直感的に設定できるが、生成されたキーフレームを後から細かく調整するのは手間がかかる。 | コードを記述するため、より複雑な条件分岐や他のエクスプレッションとの組み合わせが可能。パラメータの数値を変更するだけで動きを調整できるため、再編集が非常に容易。 |
適用範囲 | 選択したキーフレームの範囲にのみ適用される。 | エクスプレッションが記述されている限り、コンポジションの全期間にわたって動きが適用される。特定の期間だけ適用したい場合は、キーフレームでエクスプレッションの有効/無効を切り替えるなどの工夫が必要。 |
パフォーマンス | 多数のキーフレームを生成するため、プロジェクトが重くなる場合がある。 | リアルタイムで計算を行うため、複雑なエクスプレッションはプレビューやレンダリングに影響を与える場合がある。 |

「キーフレームを打ってから、その間をランダムに埋めたい」場合はウィグラーパネル、「キーフレームなしで、常にランダムな動きをさせたい」場合や「後から動きの調整を頻繁に行う可能性がある」場合はwiggleエクスプレッションを選ぶと良いでしょう。
wiggle()エクスプレッションの応用テクニック
wiggleエクスプレッションは、基本的な使い方以外にも様々な応用が可能です。これらのテクニックを習得することで、表現の幅が格段に広がります。
特定の軸のみを揺らす
位置プロパティなど、複数の次元を持つプロパティの場合、特定の軸(X、Y、Z)のみにwiggleを適用することができます。
- X軸のみを揺らす場合(2Dレイヤーの位置):
[value + wiggle(freq, amp), value]
- Y軸のみを揺らす場合(2Dレイヤーの位置):
[value, value + wiggle(freq, amp)]
value
はX座標、value
はY座標、value
はZ座標(3Dレイヤーの場合)を指します。これにより、例えば横方向だけに揺れるテキストや、縦方向だけに振動するオブジェクトなど、より制御されたランダムな動きを作成できます。

スライダー制御との組み合わせ:直感的な調整を実現
wiggleエクスプレッションのfrequency
やamplitude
の値を、エフェクトの「スライダー制御」とリンクさせることで、より直感的に動きを調整できるようになります。
- ランダムな動きを適用したいレイヤーに「エフェクト」>「エクスプレッション制御」>「スライダー制御」を適用します。
- スライダー制御の名前を「Wiggle Frequency」や「Wiggle Amplitude」など分かりやすい名前に変更します。
- wiggleエクスプレッションの入力欄で、
frequency
やamplitude
の数値の代わりに、ピックウィップツール(渦巻きアイコン)を使って、対応するスライダー制御のプロパティにドラッグ&ドロップします。
例:wiggle(effect("Wiggle Frequency")("Slider"), effect("Wiggle Amplitude")("Slider"))
これにより、エクスプレッションのコードを直接編集することなく、エフェクトコントロールパネルのスライダーを動かすだけで、リアルタイムに動きの速さや強さを調整できるようになります。これは、特に複雑なアニメーションや、後から調整が必要になるプロジェクトで非常に有効なテクニックです。

スライダー制御は、複数のレイヤーに同じwiggleエクスプレッションを適用し、一括で調整したい場合にも非常に便利です。マスタープロパティとして活用しましょう!
ループアニメーションへの活用
ウィグラーパネルやwiggleエクスプレッションは、ループアニメーションにも応用できます。例えば、最初と最後のキーフレームの値を同じにしてウィグラーを適用したり、wiggleエクスプレッションにloopOut()
などの他のエクスプレッションを組み合わせることで、自然に繰り返されるランダムな揺れを作成できます。
よくある質問とトラブルシューティング
ウィグラーやwiggleエクスプレッションを使用する際に遭遇しやすい問題とその解決策について解説します。
動きが不自然になる場合
- 周波数と量のバランス: 周波数が高すぎると動きが細かすぎてノイズのように見えたり、量が大きすぎると画面外に出てしまったりすることがあります。 表現したい動きに合わせて、これらの値を微調整しましょう。
- ノイズの種類: 「スムーズ」と「ギザギザ」を使い分けることで、動きの質感が大きく変わります。 意図しない動きになる場合は、ノイズの種類を変更してみてください。
- モーションブラーの活用: 特に高速な動きやカメラのブレを表現する際は、レイヤーにモーションブラーを適用することで、より自然でリアルな残像効果が得られます。
Wiggler/wiggleが適用されない場合
- キーフレームの選択(ウィグラーパネルの場合): ウィグラーパネルを使用する場合、最低2つのキーフレームが選択されていることを確認してください。 キーフレームが1つだけ、または全く選択されていない場合は適用できません。
- プロパティの確認: 適用したいプロパティが正しく選択されているか、また、そのプロパティがランダムな動きに適しているかを確認しましょう。
- エクスプレッションの記述ミス(wiggleエクスプレッションの場合):
wiggle(freq, amp)
の括弧やカンマ、半角/全角などの記述ミスがないか確認してください。エラーメッセージが表示される場合は、その内容を参考に修正しましょう。
レンダリング時の注意点
ウィグラーやwiggleエクスプレッションは、多くのキーフレームを生成したり、リアルタイムで計算を行ったりするため、コンポジションが重くなることがあります。特に複雑なプロジェクトでは、プレビューやレンダリングに時間がかかる場合があります。