After Effectsでオブジェクトをアニメーションさせる際、その「位置」プロパティは非常に重要です。しかし、初期設定ではX軸(横方向)、Y軸(縦方向)、そして3DレイヤーではZ軸(奥行き方向)が一つにまとまっており、意図しない動きが生じたり、複雑なアニメーションの調整が難しくなったりすることがあります。
例えば、横方向の動きだけを微調整したいのに、誤って縦方向の値まで変わってしまったり、特定の軸にだけ滑らかな緩急(イーズ)をつけたいのに、全体に影響が出てしまったりといった経験はありませんか?
このような課題を解決し、より高度で精密なアニメーションを実現するための強力な機能が、位置プロパティの「次元に分割」です。この機能を使うことで、各軸を完全に独立させてコントロールできるようになり、表現の幅が飛躍的に広がります。
この記事では、After Effectsの「次元に分割」機能について、その基本的な使い方から、なぜこの機能がプロの現場で重宝されるのか、具体的な活用シーン、そして使いこなすための実践的なヒントまで、動画クリエイターの視点から徹底的に解説します。この記事を読めば、あなたのAfter Effectsアニメーションスキルが一段と向上すること間違いなしです。
1. 「次元に分割」とは?基本概念とアニメーションにおける重要性
After Effectsのレイヤーが持つ「位置」プロパティは、初期状態ではX、Y(2Dレイヤーの場合)、またはX、Y、Z(3Dレイヤーの場合)の各座標軸が統合された一つのプロパティとして扱われます。これにより、キーフレームを打つと、すべての軸が同時に変化します。
「次元に分割」とは、この統合された「位置」プロパティを、それぞれの軸(X位置、Y位置、Z位置)に分離する機能です。これにより、各軸の値を個別のプロパティとして独立して操作できるようになります。例えば、X軸の動きだけを調整したり、Y軸にだけ異なるイーズを適用したりすることが可能になります。
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2Dレイヤーと3Dレイヤーでの違い
- 2Dレイヤーの場合:「位置」プロパティが「X位置」と「Y位置」の2つに分割されます。
- 3Dレイヤーの場合:「位置」プロパティが「X位置」「Y位置」「Z位置」の3つに分割されます。3D空間での奥行き方向の動きを個別に制御できるため、より複雑なカメラワークやオブジェクトの配置調整に役立ちます。
2. After Effectsで位置を「次元に分割」する具体的な手順
「次元に分割」の操作は非常にシンプルです。主にタイムラインパネルから行う方法と、グラフエディターから行う方法があります。
タイムラインパネルからの操作
最も一般的な方法は、タイムラインパネルで対象レイヤーの「位置」プロパティを右クリックすることです。
- 次元に分割したいレイヤーの「位置」プロパティを展開し、選択します。
- 「位置」プロパティを右クリックし、表示されるコンテキストメニューから「次元に分割」を選択します。
- すると、「位置」プロパティが「X位置」と「Y位置」(3Dレイヤーの場合は「Z位置」も)に分割されたことを確認できます。
グラフエディターからの操作
グラフエディターでキーフレームを調整している際にも、次元を分割することが可能です。
- タイムラインパネル上部の「グラフエディター」アイコンをクリックして、グラフエディターに切り替えます。
- グラフエディターの下部にある「次元に分割」アイコン(XYZのようなマーク)をクリックすると、位置プロパティが各次元に分割されます。

After Effects 2022以降のバージョンでは、環境設定の「一般」タブにある「分割された次元へのデフォルトの位置プロパティ」にチェックを入れることで、新規レイヤー作成時に位置プロパティをデフォルトで次元に分割する設定も追加されました。エクスプレッションを多用する方には特に便利な機能です。
分割した次元を元に戻す方法
一度分割した位置プロパティを、元の統合された状態に戻すことも簡単です。操作方法は分割する際と同じです。
- 分割された「X位置」「Y位置」(および「Z位置」)のいずれかを選択し、右クリックします。
- コンテキストメニューから再度「次元に分割」を選択します。
- これにより、X軸とY軸に分かれていた位置プロパティが、再び1つに統合されたことを確認できます。
3. 「次元に分割」がアニメーション表現にもたらす革新:実践的な活用シーン
「次元に分割」は、単に位置を個別に調整できるだけでなく、アニメーションの質を向上させるために不可欠な機能です。ここでは、その具体的なメリットと活用シーンを深掘りします。
3.1. 複雑なモーションパスの精密制御
After Effectsは、キーフレーム間の動きを自動的に補間し、滑らかなモーションパスを作成します。しかし、この自動補間が意図しない曲線を生み出し、動きが不自然になることがあります。特に、X軸とY軸で異なる速度や緩急をつけたい場合に顕著です。
次元に分割することで、各軸のモーションパスを独立して制御できるため、After Effectsの自動パス補間による「おせっかい」な動きを排除し、より直感的で正確なアニメーションを実現できます。
例:ボールのバウンドアニメーション
横方向に一定速度で移動しながら、縦方向にバウンドするボールのアニメーションを考えてみましょう。次元に分割しない場合と、分割した場合でどのように動きが変わるかを見ていきます。
横方向に一定速度で移動するボール
まずは、速度に一切変化がなく、一定速度で横方向に移動するシンプルなキーフレームアニメーションです。
キーフレームは2つだけのシンプルなものです。
縦方向にも動作するようにキーフレームを追加
次に、縦方向に上下動作するキーフレームを追加しました。縦方向の動きだけはバウンドらしく速度に変化を付けたいのですが、このままではX軸とY軸の変化速度が一定のままで不自然なのを確認できます。縦方向の動作だけ調整したいと思います。
横軸と縦軸に分割し、縦軸方向の動きにだけイーズを適用
次元を分割してY軸方向の動作だけに速度の変化を加えました。これでバウンドらしい動作に変わりました。Y軸とX軸に分けてコントロールしたことで、イーズを片方にだけ適用する事が出来ています。

3.2. グラフエディターを最大限に活用する
「次元に分割」は、After Effectsのグラフエディターを最大限に活用するために不可欠な機能です。グラフエディターには「速度グラフ」と「値グラフ」の2種類があり、それぞれ異なる視点からアニメーションを調整します。
- 速度グラフ:キーフレーム間の速度の変化を視覚的に表示します。
- 値グラフ:キーフレーム間のプロパティ値の変化を視覚的に表示します。
次元に分割することで、X、Y、Zそれぞれの軸の速度グラフや値グラフを独立して編集できるようになります。特に、統合された「位置」プロパティでは表示されない「値グラフ」が、次元を分割することで各軸個別に表示・編集可能になる点が重要です。これにより、例えばX軸は一定速度を保ちつつ、Y軸にはイーズイン・イーズアウトを適用するといった、より繊細な動きの調整が可能になります。


3.3. エクスプレッションとの強力な連携
After Effectsのエクスプレッションは、アニメーションを自動化したり、複雑な関係性を構築したりする際に非常に強力なツールです。次元に分割されたプロパティは、エクスプレッションから個別に参照しやすくなります。
例えば、あるレイヤーのX位置を別のレイヤーの回転に連動させたい場合など、次元が分割されていれば、thisComp.layer("Layer Name").transform.xPosition
のように直接X軸の値にアクセスでき、エクスプレッションの記述がよりシンプルかつ効率的になります。また、統合された位置プロパティを参照する場合はtransform.position
(X軸)やtransform.position
(Y軸)のように配列でアクセスする必要がありますが、次元分割後はxPosition
やyPosition
といった個別のプロパティ名で直接参照できるため、可読性も向上します。
wiggle()
エクスプレッションを使ってランダムな動きを付与する際も、次元に分割していればX軸だけにwiggle(1, 10)
を適用し、Y軸は固定するといった柔軟な制御が可能です。
3.4. 3D空間でのオブジェクト配置とアニメーションの精度向上
3Dレイヤーを扱う際、Z軸(奥行き)のコントロールは非常に重要です。次元に分割することで、X、Y、Zの各軸を個別に調整し、3D空間内でのオブジェクトの正確な配置や、奥行きを活かしたアニメーションをより直感的に作成できます。
特に、カメラの動きに合わせてオブジェクトのスケールや位置を調整するような複雑な3Dアニメーションでは、Z軸の独立した制御が不可欠となります。
4. 「次元に分割」を使いこなすための実践的ヒントと注意点
「次元に分割」は非常に便利な機能ですが、いくつか知っておくべきヒントと注意点があります。
4.1. よくある落とし穴:分割しても動かせない場合
「次元に分割」を実行したにもかかわらず、X軸やY軸が同時に選択されてしまい、個別に動かせないという状況に遭遇することがあります。これは、分割されたプロパティがまだ両方とも選択状態になっているために起こります。
解決策:タイムラインパネルの何もない空白部分をクリックして一度すべての選択を解除し、その後、個別に調整したい「X位置」または「Y位置」(または「Z位置」)だけを改めてクリックして選択し直してください。これで、単一の軸のみを操作できるようになります。
4.2. キーフレーム補間法との相乗効果
「次元に分割」は、キーフレーム補間法と組み合わせて使うことで、その真価を発揮します。After Effectsには、リニア、ベジェ、自動ベジェ、連続ベジェなど、様々なキーフレーム補間法があります。
次元に分割した各軸に対して、異なる補間法を適用することで、例えばX軸は直線的な動き(リニア)にし、Y軸は滑らかな曲線的な動き(ベジェ)にするなど、より複雑で自然なアニメーション表現が可能になります。グラフエディターで各軸のグラフを個別に調整する際に、これらの補間法を意識すると、より理想的な動きを作り出せます。
4.3. パフォーマンスへの影響(微小だが考慮)
次元に分割することで、プロパティの数が増えるため、ごくわずかですがプロジェクトの処理に影響を与える可能性があります。しかし、通常のアニメーション制作においては、そのメリットがデメリットを大きく上回るため、パフォーマンスを過度に気にする必要はほとんどありません。

アニメーションの調整は、ショートカットキーを覚えることで格段に効率が上がります。例えば、位置プロパティを表示する「P」、キーフレームにイージーイーズを適用する「F9」などは頻繁に使うので、ぜひ覚えておきましょう。
まとめ:アニメーション表現の幅を広げる「次元に分割」
After Effectsの「次元に分割」機能は、位置プロパティをX、Y、Zの各軸に独立させることで、アニメーションの精度と表現力を格段に向上させるための必須テクニックです。意図しない動きの修正から、複雑なバウンドアニメーション、エクスプレッションによる高度な制御、そして3D空間での精密な作業まで、その活用範囲は多岐にわたります。
特に、グラフエディターでの微調整や、特定の軸にのみ緩急をつけたい場合には、この機能がなければ実現が難しい表現も少なくありません。最初は少し戸惑うかもしれませんが、一度この機能の便利さを体験すれば、手放せなくなるはずです。
この記事で紹介した手順と活用例を参考に、ぜひご自身のプロジェクトで「次元に分割」を試してみてください。練習を重ねることで、あなたのAfter Effectsアニメーションは、よりプロフェッショナルで魅力的なものへと進化するでしょう。
位置プロパティを各次元に分割してコントロールする練習が出来るaepファイルです。このページで紹介した内容が収録されています。After Effectsを勉強中の方に参考としてご利用頂ければと思います。次元に分割せずに同じような動きを作成することも可能ですが、その場合はどのように作成するのか等も考えてみると色々発見があるかもしれません。