動画編集において、単に映像をつなぎ合わせるだけでなく、視聴者の感情に訴えかけ、物語に引き込むためには、映像の「速度」を巧みに操る技術が不可欠です。特に、特定のシーンで時間を引き伸ばしたり、一瞬で状況を切り替えたりする「速度変化」は、動画のクオリティを飛躍的に向上させます。Premiere Proの「タイムリマップ」機能は、この高度な速度調整を可能にする強力なツールです。
この機能を使えば、早送りやスロー再生はもちろんのこと、速度の変化を「徐々に」適用する「イージング」を組み合わせることで、まるで映画のような滑らかな演出を実現できます。本記事では、Premiere Proで動画の速度に緩急をつけ、よりプロフェッショナルな映像表現を生み出すためのタイムリマップとイージングの活用方法を、初心者の方にも分かりやすく解説します。
Premiere Proのタイムリマップ機能とは?
Premiere Proのタイムリマップ機能は、クリップ全体ではなく、動画クリップ内の特定の部分の再生速度を自由自在に調整できる画期的な機能です。通常の速度変更がクリップ全体の速度を一律に変えるのに対し、タイムリマップはキーフレームを使って、クリップの途中で速度を速めたり、遅くしたり、さらには逆再生にしたりと、細かなコントロールを可能にします。この機能によって、映像に「緩急」が生まれ、視聴者に強い印象を与えることができます。
タイムリマップによって実現される「速度トランジション」や「スピードランプ」といった演出は、スポーツのハイライトシーンやドラマチックな瞬間、時間の経過を表現するモンタージュなどで頻繁に用いられ、映像にダイナミズムとプロフェッショナルな雰囲気を加えます。
タイムリマップの基本操作:速度変化を適用する手順
まずは、タイムリマップ機能を使って、動画クリップに速度変化を適用する基本的な手順を見ていきましょう。
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タイムリマップの有効化
タイムラインに配置した動画クリップにタイムリマップを適用するには、以下の手順で行います。
- タイムライン上の動画クリップを選択します。
- クリップの左上にある「Fx」アイコンを右クリックします。
- 表示されるメニューから「タイムリマップ」を選択し、さらに「速度」を選択します。
この操作を行うと、クリップ上に白い水平線(ラバーバンド)が表示され、速度調整が可能になります。より細かく作業するために、タイムラインのトラックの高さを広げておくと、ラバーバンドやキーフレームが見やすくなります。
速度キーフレームの追加
速度を変化させたい開始点と終了点に「キーフレーム」を追加します。キーフレームは、特定のエフェクトやプロパティの値が変化する時点を示すマーカーのようなものです。
- タイムラインの白いラバーバンド上で、速度変化を開始したい位置に再生ヘッドを移動させます。
- Ctrlキー(Windows)またはCommandキー(Mac)を押しながら、ラバーバンドをクリックすると、キーフレームが追加されます。
- または、ツールパネルから「ペンツール」を選択し、ラバーバンド上をクリックしてキーフレームを追加することも可能です。
エフェクトコントロールパネルの「速度」項目からもキーフレームを追加できますが、タイムライン上で直接操作する方が視覚的に分かりやすく、直感的な編集が可能です。
速度の調整(ラバーバンドの操作)
キーフレームを追加したら、ラバーバンドを上下にドラッグして速度を調整します。
- ラバーバンドを上にドラッグすると、その区間の速度が速くなります(早送り)。
- ラバーバンドを下にドラッグすると、その区間の速度が遅くなります(スロー再生)。
速度を変更すると、クリップの尺も自動的に調整されます。早送りにすればクリップは短くなり、スロー再生にすれば長くなります。

スローモーションを多用する動画を制作する場合は、撮影時に60fps以上の高フレームレートで撮影しておくと、より滑らかで美しいスロー再生が可能です。
速度変化を滑らかにする「速度トランジション」の作成
タイムリマップの真骨頂は、速度の変化を急激に行うのではなく、徐々に変化させる「速度トランジション」を作成できる点にあります。これにより、映像に自然な緩急が生まれ、視聴者にとってより心地よい体験を提供できます。
キーフレームの分割とハンドルの操作
速度トランジションを作成するには、速度キーフレームを分割し、そのハンドルを操作します。
- 速度変化を開始したいキーフレームをクリックし、そのまま左右にドラッグします。
- すると、1つのキーフレームが2つのハンドルに分割されます。この2つのハンドルの間隔が、速度が変化する「トランジションの時間」を示します。
- ハンドルを左右に広げることで、速度変化が完了するまでの時間を長くし、より緩やかな変化にすることができます。
例えば、通常速度から徐々に早送りにしたい場合は、速度が上がる区間のキーフレームのハンドルを広げ、ラバーバンドを上方向にカーブさせます。逆に、スロー再生に徐々に移行したい場合は、ハンドルを広げ、ラバーバンドを下方向にカーブさせます。

さらに自然な動きへ:イージングとベジェ曲線の活用
速度トランジションだけでも十分滑らかな演出が可能ですが、さらにプロフェッショナルな仕上がりを目指すなら、「イージング」と「ベジェ曲線」の活用が不可欠です。これらを組み合わせることで、速度変化の開始と終了をよりスムーズにし、動きに「勢い」や「減速感」といったニュアンスを加えることができます。
イージングの概念と適用
イージングとは、アニメーションの速度変化を滑らかにするための設定です。Premiere Proでは、キーフレームに「イーズイン」や「イーズアウト」を適用することで、速度変化の開始時や終了時をより自然に演出できます。
- イーズイン(Ease In):キーフレームに近づくにつれて、速度変化が減速します。
- イーズアウト(Ease Out):キーフレームから離れるにつれて、速度変化が加速します。
適用方法は簡単です。
- イージングを適用したい速度キーフレームを右クリックします。
- 「時間補間法」のメニューから「イーズイン」または「イーズアウト」を選択します。

ベジェ曲線による詳細な調整
イージングを適用すると、速度変化のラバーバンドが曲線的に変化します。この曲線の形状をさらに細かくコントロールできるのが「ベジェ曲線」です。
- イージングを適用したキーフレームをダブルクリックするか、エフェクトコントロールパネルの「速度」プロパティを展開します。
- キーフレームの左右に表示される「ハンドル」(ベジェハンドル)をドラッグして、曲線の形状を調整します。
ハンドルを操作することで、速度が急激に変化するポイントや、ゆっくりと変化する区間を視覚的に調整できます。例えば、急加速してすぐに減速するような動きや、ゆっくりと加速し、ピークに達した後に緩やかに減速するといった、より複雑で自然な速度変化を作り出すことが可能です。

ベジェ曲線を使った速度調整は、慣れるまで少し時間がかかるかもしれません。しかし、この操作をマスターすれば、アニメーションの動きに無限のバリエーションを持たせることができます。エフェクトコントロールパネルの「速度グラフ」も活用し、視覚的に変化を確認しながら調整することをおすすめします。

タイムリマップを使いこなす応用テクニック
タイムリマップとイージングの基本を習得したら、さらに一歩進んだ応用テクニックに挑戦してみましょう。
- 複数の速度変化を組み合わせる:一つのクリップ内で、早送り、スロー再生、通常速度への復帰など、複数の速度変化を組み合わせることで、よりダイナミックな演出が可能です。例えば、アクションシーンで動きのピークをスローにし、その前後は早送りでテンポ良く見せるなど、緩急のメリハリをつけられます。
- スピードランプとブラー効果の連携:速度が急激に変化する瞬間に「方向性ブラー」などのエフェクトを適用することで、スピード感を強調し、視覚的なインパクトを高めることができます。これは「スピードランプ」と呼ばれるテクニックで、プロの現場でもよく使われます。

タイムリマップは、単なる速度調整ツールではなく、映像に感情やリズムを与えるための強力な表現手段です。様々なクリップで試行錯誤を繰り返し、自分なりの「緩急の付け方」を見つけることが、動画クリエイターとしてのスキルアップにつながります。
まとめ:動画表現の可能性を広げるタイムリマップ
Premiere Proのタイムリマップ機能とイージングを使いこなすことで、動画の再生速度を単調なものから、感情豊かでダイナミックな表現へと昇華させることができます。徐々に速度が変化する「速度トランジション」や、ベジェ曲線による繊細な速度調整は、視聴者の没入感を高め、映像にプロフェッショナルなクオリティをもたらします。
この技術は、YouTube動画から企業VP、さらには映画制作まで、あらゆるジャンルの動画編集で活用されています。ぜひ本記事で紹介した手順を参考に、Premiere Proのタイムリマップ機能をマスターし、あなたの動画表現の可能性を最大限に広げてください。