動画編集において、映像の特定の部分を切り取ったり、画面の表示領域を調整したりする「クロップ」は、プロの現場からSNS動画まで幅広く活用される重要なテクニックです。特にAdobe Premiere Proでは、このクロップ機能を直感的に、かつ高度に使いこなすことで、映像表現の幅を大きく広げることができます。
本記事では、Premiere Proを使った動画のクロップ方法について、基本的な操作から、映画のような「レターボックス」の作成、複数の映像を同時に見せる「画面分割」といった応用テクニックまで、動画クリエイターの視点から徹底的に解説します。あなたの動画編集スキルを次のレベルへと引き上げるためのヒントが満載です。
クロップとは?動画編集における「トリミング」との違い
「クロップ(Crop)」という言葉は、写真編集では「トリミング」と同じ意味で使われることが多く、画像の一部を切り取ることを指します。しかし、動画編集の世界では、「クロップ」と「トリミング」は明確に異なる意味合いで使われます。
動画編集における「クロップ」は、映像の「表示領域」を切り取ることです。例えば、画面の上下左右に不要な部分が映り込んでいる場合や、特定の被写体を強調したい場合に、その表示範囲を狭めるために使います。
一方、「トリミング(Trimming)」は、タイムライン上で動画の「時間的な長さ」を調整することを指します。動画の冒頭や末尾の不要な部分をカットしたり、クリップの再生時間を短くしたりする際に用いられます。つまり、クロップが「空間的」な編集であるのに対し、トリミングは「時間的」な編集と言えるでしょう。この違いを理解しておくことで、Premiere Proでの作業がよりスムーズになります。

クロップとトリミングは混同されがちですが、動画編集では全く異なる操作です。目的を明確にして使い分けましょう!
Premiere Proで動画をクロップする基本手順
Premiere Proで動画や画像クリップにクロップを適用するのは非常に簡単です。ここでは、エフェクトパネルから「クロップ」エフェクトを使用する基本的な方法を解説します。
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1. クリップをタイムラインに配置する
まず、クロップを適用したい動画または画像クリップをPremiere Proのタイムラインパネルに配置します。
2. クロップエフェクトを探す
Premiere Proの「エフェクト」パネルを開き、検索窓に「クロップ」と入力します。すると、「ビデオエフェクト」の「トランスフォーム」カテゴリ内に「クロップ」エフェクトが表示されます。
3. クリップにクロップを適用する
見つけた「クロップ」エフェクトを、タイムライン上の対象クリップにドラッグ&ドロップで適用します。
4. クロップの幅を設定する
クリップを選択した状態で「エフェクトコントロール」パネルを開くと、「クロップ」の項目が追加されています。ここで「上」「下」「左」「右」の各項目に数値を入力することで、映像をパーセンテージで切り取ることができます。
数値を直接入力するだけでなく、各項目の数値の横にあるスライダーをドラッグしたり、プログラムモニター上でクロップの境界線を直接ドラッグして調整することも可能です。

正確な数値を入力したい場合はエフェクトコントロールパネル、直感的に調整したい場合はプログラムモニターでのドラッグが便利です。状況に応じて使い分けましょう。
クロップの多様な活用術と応用例
クロップ機能は単に映像を切り取るだけでなく、様々なクリエイティブな表現に応用できます。ここでは、その代表的な活用術をご紹介します。
1. 映画のような「レターボックス」を作成する
映画やシネマティックな動画でよく見られる、画面の上下に黒い帯が入った表現は「レターボックス」と呼ばれます。これは、横長のアスペクト比(例:2.35:1や21:9)で制作された映像を、一般的な16:9のディスプレイで表示する際に生じるものです。Premiere Proのクロップ機能を使えば、このレターボックスを簡単に再現し、動画に映画のような雰囲気を加えることができます。
レターボックスを作成するには、クロップエフェクトの「上」と「下」の項目に同じパーセンテージを入力します。例えば、映画でよく使われる2.35:1のアスペクト比を再現する場合、上下それぞれ約12.17%の値を入力すると近い見た目になります。
複数のクリップに一括でレターボックスを適用したい場合は、「調整レイヤー」を作成し、その調整レイヤーにクロップエフェクトを適用するのが効率的です。調整レイヤーは、その下にある全てのクリップにエフェクトを適用できるため、作業時間を大幅に短縮できます。
2. 複数画面を同時に表示する「画面分割」
クロップは、YouTubeの実況動画やニュース番組のワイプ表示など、一つの画面に複数の映像を同時に表示する「画面分割」や「ピクチャインピクチャ(PinP)」の作成にも非常に役立ちます。
例えば、2つの動画を左右に並べて表示したい場合、それぞれの動画クリップにクロップエフェクトを適用し、片方を左半分、もう片方を右半分に切り取ります。その後、エフェクトコントロールの「位置」と「スケール」を調整して、画面内にきれいに配置します。
2分割だけでなく、3分割や4分割といった複雑な画面構成も、クロップと位置・スケールの組み合わせで実現可能です。


3. 構図の調整や不要な要素の除去
撮影時に意図しないものが画面の端に映り込んでしまったり、メインの被写体が画面の中心からずれてしまったりすることはよくあります。クロップ機能を使えば、こうした不要な部分をカットし、映像の構図を調整して、見せたい部分を強調することができます。
例えば、インタビュー動画で背景に映り込んだ通行人を消したり、商品紹介動画で商品の周りの余計なスペースを削って、商品そのものにフォーカスしたりする際に有効です。
4. SNS向けのアスペクト比調整
YouTube(16:9)、Instagram(1:1、4:5、9:16)、TikTok(9:16)など、SNSプラットフォームによって推奨されるアスペクト比は異なります。クロップ機能を使えば、一つの動画素材から、各SNSに最適なアスペクト比の動画を効率的に作成することが可能です。
特に縦型動画を作成する際、横長の素材から中央部分を切り抜くことで、違和感なく縦型に変換できます。
5. クリエイティブな形状で切り抜く(マスク機能の活用)
Premiere Proのクロップエフェクトには、四角形だけでなく、円形や自由な形状で映像を切り抜くためのマスク機能が搭載されています。エフェクトコントロールパネルのクロップ項目にある「丸」「四角」「ペン」のアイコンを選択することで、様々な形のマスクを作成できます。
これにより、特定のオブジェクトだけを円形に切り抜いて強調したり、複雑な形状のワイプを作成したりするなど、よりクリエイティブな映像表現が可能になります。
6. テロップやオブジェクトのアニメーション
クロップエフェクトは、動画クリップだけでなく、テキストやグラフィックなどのオブジェクトにも適用できます。これを利用して、テロップが徐々に表示されたり、特定の図形がアニメーションしながら現れたりするような演出を作成できます。
エフェクトコントロールパネルでクロップの各項目(上、下、左、右)にキーフレームを設定することで、時間とともにクロップ範囲を変化させ、動きのある表現を作り出すことが可能です。
クロップをさらに効果的に使うためのヒント
キーフレームで動きをつける
クロップエフェクトは、キーフレームと組み合わせることで、さらにダイナミックな演出が可能です。例えば、レターボックスが画面の上下からスライドインしてくるようなアニメーションや、特定の被写体にズームインするような効果を、クロップの数値を時間とともに変化させることで実現できます。
キーフレームは、エフェクトコントロールパネルの各項目の横にあるストップウォッチアイコンをクリックすることで設定できます。これにより、動画の特定の瞬間に合わせた細かな調整が可能になります。

キーフレームは動画編集の基本中の基本。クロップだけでなく、位置やスケールなど様々なエフェクトに応用できるので、ぜひマスターしてください!
調整レイヤーの活用
前述のレターボックスの作成でも触れましたが、複数のクリップに同じクロップ効果を適用したい場合、一つずつエフェクトを適用するのは手間がかかります。このような場合に「調整レイヤー」が非常に便利です。調整レイヤーにクロップエフェクトを適用すれば、そのレイヤーの下にある全てのクリップに一括で効果を反映させることができます。
特に、動画全体に統一したレターボックスを適用したい場合や、複数の画面分割レイアウトを試したい場合に、調整レイヤーは作業効率を格段に向上させます。
画質への影響と注意点
クロップは映像の一部を切り取るため、結果的に元の映像のピクセル数を減らすことになります。特に、元の解像度が低い映像を大きくクロップして拡大表示しようとすると、画質が粗くなる可能性があります。
高画質を維持するためには、可能な限り高解像度の素材を使用し、クロップ後の拡大率を抑えることが重要です。また、最終的な出力解像度を考慮してクロップ範囲を決定しましょう。
まとめ
Premiere Proのクロップ機能は、単なる切り抜きツールではなく、動画の構図調整、シネマティックな演出、複数画面の合成、SNS向けのアスペクト比調整、さらにはアニメーション表現まで、多岐にわたる用途で活用できる強力なエフェクトです。
基本的な操作をマスターするだけでなく、キーフレームや調整レイヤーといった応用テクニックを組み合わせることで、あなたの動画表現は飛躍的に向上するでしょう。本記事で紹介した様々な活用術を参考に、ぜひPremiere Proのクロップ機能を使いこなし、視聴者の心に残る魅力的な動画を制作してください。