Adobe Premiere Pro(プレミアプロ)での動画編集において、クリップのインポイントとアウトポイントを設定することは基本中の基本です。しかし、このインポイントとアウトポイントは、個々のクリップだけでなく、シーケンス全体に対しても設定できることをご存知でしょうか?シーケンスにインポイントとアウトポイントを指定することで、特定の範囲を効率的に「リフト」や「抽出」で削除したり、必要な部分だけを「書き出し」たり、「レンダリング」したりすることが可能になります。この機能は、特に長尺のプロジェクトや複雑な編集において、作業効率と精度を飛躍的に向上させるための強力なツールとなります。
この記事では、Premiere Proのシーケンスでインポイントとアウトポイントを設定する基本的な手順から、それらを活用した高度な編集テクニック、さらにはプロの現場で役立つ実践的なコツまで、網羅的に解説します。このガイドを通じて、あなたのPremiere Proでの編集ワークフローを次のレベルへと引き上げましょう。
Premiere Proシーケンスにおけるインポイント・アウトポイントとは?
Premiere Proでは、個々のクリップに対して「ここから(インポイント)」、「ここまで(アウトポイント)」と指定し、使用する範囲を決定します。シーケンスにおけるインポイントとアウトポイントも同様の概念ですが、その対象はタイムライン上の「シーケンス全体」となります。これにより、シーケンス内の特定の時間範囲をまとめて選択し、様々な操作を適用できるようになります。
このシーケンスの範囲指定機能は、タイムライン上の複数のクリップやトラックにまたがる広範囲の編集作業を、より直感的かつ効率的に行うために不可欠です。例えば、動画の特定の部分だけをクライアントに確認してもらいたい場合や、最終的な書き出し前に特定のセクションだけをプレビューしたい場合などに威力を発揮します。

この機能は、特に長尺のプロジェクトや複雑な編集で真価を発揮します。タイムラインが長くなればなるほど、この範囲指定の恩恵を感じるはずです。
シーケンスのインポイント・アウトポイントを設定する基本手順
シーケンスにインポイントとアウトポイントを設定する方法は、クリップに対して行う場合と非常に似ています。タイムラインパネルまたはプログラムモニターを使用して、直感的に範囲を指定できます。
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インポイントの設定
シーケンスの開始点となるインポイントを設定します。プログラムモニターの再生ヘッドをインポイントとして指定したい時間に合わせるか、タイムライン上で再生ヘッドを移動させます。
再生ヘッドを目的の位置に置いたら、プログラムモニター下部にある「インポイントを設定」ボタン(左向きの括弧のようなアイコン)をクリックします。キーボードショートカットの「I」キーを押すことでも同様に設定が可能です。
アウトポイントの設定
次に、シーケンスの終了点となるアウトポイントを設定します。インポイントと同様に、プログラムモニターの再生ヘッドをアウトポイントとして指定したい時間に合わせるか、タイムライン上で再生ヘッドを移動させます。
再生ヘッドを目的の位置に置いたら、プログラムモニター下部にある「アウトポイントを設定」ボタン(右向きの括弧のようなアイコン)をクリックします。キーボードショートカットの「O」キーを押すことでも設定が可能です。このショートカットは、タイムライン上でも利用できるため、覚えておくと編集効率が格段に上がります。
設定した範囲の調整方法
一度設定したインポイントとアウトポイントの範囲は、後から自由に調整できます。タイムライン上のインポイントマーカーまたはアウトポイントマーカーをドラッグすることで、範囲の開始点や終了点を変更できます。
また、インポイントとアウトポイントで囲まれた範囲の中央部分をドラッグすると、範囲の長さを保ったまま、その範囲全体をタイムライン上で左右に移動させることができます。これにより、特定のシーンを別のタイミングに移動させたい場合に非常に便利です。
インポイント・アウトポイントの解除(削除)
設定したインポイントとアウトポイントが不要になった場合は、簡単に解除できます。プログラムモニターまたはタイムライン上で、設定された範囲を右クリックし、コンテキストメニューから「インを消去」または「アウトを消去」を選択します。両方を同時に解除したい場合は、「インとアウトを消去」を選択します。
さらに効率的なのは、キーボードショートカット「Alt + X」(Macの場合はOption + X)を使用することです。これにより、インポイントとアウトポイントの両方を一瞬で解除できます。

不要な範囲指定はこまめに解除することで、誤操作を防ぎ、作業効率を維持できます。特に複雑な編集では、常にタイムラインをクリーンに保つ意識が重要です。
シーケンスのインポイント・アウトポイントを活用した効率的な編集テクニック
シーケンスのインポイントとアウトポイントは、単なる範囲指定に留まらず、Premiere Proの強力な編集機能と組み合わせることで、作業効率を劇的に向上させます。ここでは、その代表的な活用例をご紹介します。
範囲内のクリップを一括削除:リフトと抽出
シーケンスにインポイントとアウトポイントを設定することで、その範囲内のクリップをまとめて削除する際に、2つの異なる方法を選択できます。
リフト(Lift):ギャップを残して削除
リフトは、指定したインポイントとアウトポイントの範囲内にあるクリップを削除しますが、その場所に空白(ギャップ)を残します。これは、後から別のクリップを挿入するスペースを確保したい場合や、意図的に空白の時間を作りたい場合に便利です。プログラムモニター下部の「リフト」ボタン(上向きの矢印アイコン)をクリックするか、キーボードショートカット「;」(セミコロン)を使用します。
抽出(Extract):ギャップを詰めて削除(リップル削除)
抽出は、指定したインポイントとアウトポイントの範囲内にあるクリップを削除し、同時にその空白を自動的に詰めます。これにより、後続のクリップが左に移動し、タイムライン全体が短縮されます。これは、不要な部分を完全に削除し、動画の尺を調整したい場合に非常に効率的です。プログラムモニター下部の「抽出」ボタン(左向きの矢印アイコン)をクリックするか、キーボードショートカット「,」(カンマ)を使用します。
抽出は、いわゆる「リップル削除」の一種であり、タイムラインのズレを防ぎながらスムーズなカット編集を行う上で非常に重要な機能です。


特定範囲の書き出し(エクスポート)
シーケンスのインポイントとアウトポイントは、動画の最終的な書き出し(エクスポート)においても非常に重要な役割を果たします。プロジェクト全体ではなく、特定のセクションだけを書き出したい場合にこの機能が役立ちます。
書き出し設定画面(ファイル > 書き出し > メディア、またはCtrl/Cmd + M)に進むと、「ソース範囲」という項目があります。ここで「シーケンスイン/アウト」を選択することで、タイムラインで設定したインポイントとアウトポイントの範囲のみを書き出すことができます。
この機能は、以下のような場面で特に役立ちます。
- プレビュー用動画の作成: クライアントや関係者に特定のシーンだけを共有したい場合。
- SNS投稿用クリップの作成: 長尺動画の中からハイライトシーンを切り出してSNSに投稿したい場合。
- 中間素材の書き出し: 複雑なエフェクトを適用した部分だけを一度書き出し、別のプロジェクトで再利用したい場合。

長尺動画の一部をSNSに投稿したい場合など、この機能は非常に便利です。書き出し時間を大幅に短縮し、必要な部分だけを効率的に共有できます。

特定範囲のレンダリングとプレビュー
シーケンスのインポイントとアウトポイントは、レンダリングやプレビューの効率化にも貢献します。
- レンダリングの効率化: タイムライン上の特定のエフェクトが重い部分や、スムーズに再生されない部分だけをインポイントとアウトポイントで囲み、「シーケンス > ワークエリアをレンダリング」または「シーケンス > インからアウトをレンダリング」を選択することで、必要な範囲だけを高速にレンダリングできます。これにより、全体のレンダリングを待つことなく、問題のある部分の再生を確認できます。
- プレビューの高速化: 編集中の特定のセクションを繰り返し確認したい場合、インポイントとアウトポイントで範囲を指定することで、その範囲内だけをループ再生させることができます。これにより、不要な部分の再生をスキップし、効率的に作業を進められます。
ワークエリアバーとの連携
Premiere Proには、インポイントとアウトポイントの他に「ワークエリアバー」という範囲指定機能もあります。これはタイムライン上部に表示されるバーで、主にレンダリングや書き出しの範囲を指定する際に利用されます。
ワークエリアバーは、タイムラインパネルのメニューから「ワークエリアバーを表示」を選択することで表示できます。バーの両端をドラッグして範囲を調整したり、中央をダブルクリックしてシーケンス全体に設定したりできます。
インポイント/アウトポイントとワークエリアバーは似た機能ですが、使い分けのポイントとしては、インポイント/アウトポイントはより汎用的な範囲指定(削除、書き出し、プレビューなど)に、ワークエリアバーは特にレンダリングや書き出しの際に視覚的に範囲を把握したい場合に便利です。

ワークエリアバーは、特にレンダリングや書き出しの際に、視覚的に範囲を確認・調整するのに役立ちます。インポイント/アウトポイントと合わせて使いこなすことで、より柔軟なワークフローが実現します。
プロが語る!シーケンスイン/アウトポイント活用のコツと注意点
シーケンスのインポイント・アウトポイントは、Premiere Proの編集効率を大きく左右する重要な機能です。ここでは、プロの動画クリエイターが実践している活用術と、知っておくべき注意点をご紹介します。
長尺プロジェクトでの活用術
ドキュメンタリーやイベント記録など、数十分から数時間に及ぶ長尺の動画編集では、シーケンスのインポイント・アウトポイントが特に威力を発揮します。例えば、クライアントからの修正指示が「25分30秒から28分15秒までの部分を修正してほしい」といった場合、正確にインポイントとアウトポイントを設定し、その範囲だけを抽出して修正作業に集中できます。修正が完了したら、その部分だけを書き出してクライアントに確認してもらうことで、全体の書き出し時間を大幅に短縮できます。
ショートカットキーの習得の重要性
「I」キーでインポイント、「O」キーでアウトポイント、「Alt + X」でイン/アウトの解除、「;」でリフト、「,」で抽出。これらのショートカットキーを指が覚えるまで練習することが、編集速度を向上させる最も効果的な方法の一つです。マウス操作に頼るよりも、キーボードショートカットを多用することで、思考を中断することなくスムーズに作業を進められます。
他の編集機能との組み合わせ
シーケンスのインポイント・アウトポイントは、単独で使うだけでなく、他のPremiere Proの機能と組み合わせることで、さらに強力な編集ワークフローを構築できます。
- マーカーとの連携: 重要なシーンや編集点にマーカーを打っておき、そのマーカーを基準にインポイントやアウトポイントを設定することで、より正確な範囲指定が可能になります。
- ネスト化シーケンスとの組み合わせ: 複数のシーケンスをネスト化している場合でも、親シーケンス上でインポイント・アウトポイントを設定し、ネスト化された子シーケンスの特定部分を効率的に操作できます。
- 3ポイント編集: ソースモニターとタイムラインのイン/アウトポイントを組み合わせて、素材を正確な位置に挿入する「3ポイント編集」の基礎としても、シーケンスのイン/アウトポイントの理解は不可欠です。
これらの機能を複合的に活用することで、あなたの動画編集スキルは格段に向上し、より複雑なプロジェクトにも自信を持って取り組めるようになるでしょう。
まとめ
Premiere Proのシーケンスにおけるインポイントとアウトポイントの設定は、単なる基本操作に留まらない、非常に強力で汎用性の高い機能です。この機能を習得し、リフト、抽出、書き出し、レンダリングといった様々な編集ワークフローに組み込むことで、あなたの動画編集の効率と精度は飛躍的に向上します。
特に、長尺の動画編集や、部分的な修正・共有が必要な場面では、シーケンスのインポイント・アウトポイントが作業時間を大幅に短縮し、ストレスを軽減してくれるでしょう。今回ご紹介した基本操作と応用テクニックを繰り返し練習し、あなたのPremiere Pro編集スキルをさらに磨き上げてください。これらの知識と実践が、あなたのクリエイティブな表現をより自由に、そして効率的に実現するための強力な土台となるはずです。