動画編集において、クリップの再生速度を調整する「スピードコントロール」は、映像表現の幅を大きく広げる重要なテクニックです。Premiere Proには、この速度調整を直感的に行える「レート調整ツール」をはじめ、様々な強力な機能が搭載されています。早送りやスロー再生といった基本的な表現はもちろん、時間の流れを巧みに操ることで、視聴者の感情に訴えかけるドラマチックな演出や、情報を効率的に伝えるための工夫が可能になります。
この記事では、Premiere Proで動画の再生速度を自在にコントロールするための主要な方法を、初心者の方にも分かりやすく解説します。特に、直感的な操作が魅力のレート調整ツールの使い方から、より高度な表現を可能にするテクニック、そしてスロー再生時に発生しがちな「カクつき」を解消する方法まで、プロの動画クリエイターが実践するノウハウを余すことなくご紹介します。
Premiere Proでクリップの再生速度を変更する3つの主要な方法
Premiere Proでは、動画クリップの再生速度を変更するために、主に3つの方法が用意されています。それぞれの方法には特徴があり、編集の目的や求める精度に応じて使い分けることが重要です。
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1. レート調整ツール:直感的なドラッグ操作で素早く調整
レート調整ツールは、Premiere Proの速度調整機能の中でも特に直感的な操作が可能なツールです。タイムライン上でクリップの長さを直接ドラッグして変更することで、再生速度を視覚的に調整できます。これにより、クリップ同士のつながりや全体のデュレーションを意識しながら、スピーディーに編集を進めることができます。
レート調整ツールの選択と基本的な使い方
レート調整ツールは、ツールパネルに表示されています。通常は「リップルツール」のアイコンの下に隠れていることが多いので、リップルツールを長押しすると表示されるメニューから「レート調整ツール」を選択してください。ショートカットキー「R」で直接呼び出すことも可能です。
ツールを選択したら、タイムライン上のクリップの端にマウスカーソルを合わせます。カーソルが「レート調整ツール」のアイコンに変わったら、そのままドラッグしてクリップの長さを変更します。
- **内側にドラッグ(クリップを短くする):** 再生速度が速くなり、早送りになります。
- **外側にドラッグ(クリップを長くする):** 再生速度が遅くなり、スロー再生になります。
クリップの長さを変更すると、タイムライン上のクリップに現在の再生速度がパーセンテージで表示されます。100%が元の速度で、例えば50%なら半分の速度(スロー再生)、200%なら2倍の速度(早送り)になります。
レート調整ツールは、隣接するクリップがある場合、そのクリップを上書きしない範囲でしか長さを変更できません。これは、タイムライン全体の尺を大きく変えずに、クリップ間のギャップを埋めたり、特定の区間に収まるように速度を調整したい場合に非常に便利です。

レート調整ツールは、タイムラインの尺を調整しながら速度を変えたい場合に特に便利です。例えば、BGMの長さに合わせて映像の速度を微調整する際などに重宝します。

2. 速度・デュレーション:数値入力で正確な速度調整
レート調整ツールが直感的な操作に優れる一方、より厳密な数値で再生速度を指定したい場合には「速度・デュレーション」機能が適しています。
「速度・デュレーション」ダイアログの使い方
速度を変更したいクリップを右クリックし、メニューから「速度・デュレーション」を選択します。または、クリップを選択した状態でショートカットキー「Ctrl + R」(Macでは「Cmd + R」)を押すことでもダイアログを開けます。
ダイアログボックスでは、「速度」と「デュレーション」の項目があります。通常はこれらがリンクアイコンで連動しており、どちらか一方の数値を変更すると、もう一方も自動的に調整されます。例えば、速度を50%に設定すれば、デュレーションは元の2倍になります。
- **速度:** パーセンテージで再生速度を指定します。100%が元の速度です。
- **デュレーション:** クリップの再生時間を直接指定します。
- **逆再生:** チェックを入れると、クリップが逆方向に再生されます。
- **オーディオのピッチを維持:** 速度変更時にオーディオのピッチ(音の高さ)が変わるのを防ぎます。
リンクアイコンを解除すると、速度とデュレーションを個別に設定できます。例えば、速度を50%にしてもデュレーションを元のままにすると、クリップの後半がトリムされる形になります。この機能を理解して使いこなすことで、より柔軟な編集が可能です。

厳密な時間指定や、特定の倍率で速度を変更したい場合は「速度・デュレーション」が最適です。例えば、「このシーンは正確に5秒にしたい」といった場合に役立ちます。
3. タイムリマップ:キーフレームで部分的な速度変化を実現
レート調整ツールや速度・デュレーションがクリップ全体の速度を変更するのに対し、「タイムリマップ」はクリップの途中で再生速度を変化させることができる高度な機能です。キーフレームを使って速度のカーブを調整するため、よりドラマチックで滑らかな速度変化を表現できます。
タイムリマップの基本的な使い方
タイムリマップを使用するには、まずクリップを右クリックし、「クリップキーフレームを表示」>「タイムリマップ」>「速度」を選択します。すると、クリップ上に「ラバーバンド」と呼ばれる線が表示されます。このラバーバンドが速度を表し、上に持ち上げると速度が速く、下に下げると遅くなります。
速度を変化させたいポイントで「Ctrl」(Macでは「Cmd」)キーを押しながらラバーバンドをクリックすると、キーフレームが追加されます。複数のキーフレームを追加し、それぞれの間のラバーバンドを上下にドラッグすることで、部分的に速度を変化させることができます。キーフレームのハンドルを調整することで、速度変化のカーブを滑らかにすることも可能です。

映像の途中で急加速・急減速させたい、あるいは特定の瞬間にだけスローモーションを適用したいなど、ドラマチックな演出にはタイムリマップが不可欠です。プロの現場では頻繁に利用されるテクニックの一つです。

スロー再生時のカクつきを解消!滑らかな映像を実現する補間機能
動画をスロー再生すると、元のフレームレート(1秒あたりのコマ数)が不足している場合、映像がカクカクとした不自然な動きになることがあります。これは、例えば30fpsで撮影された動画を50%のスロー再生にすると、1秒あたりのフレーム数が15枚に減ってしまうためです。Premiere Proには、このフレーム不足を補い、スローモーションを滑らかにするための「補間」機能が用意されています。
フレームブレンド:手軽に滑らかさを加える
「フレームブレンド」は、不足するフレームを前後のフレームを半透明で重ね合わせることで補間し、動きを滑らかにする機能です。比較的処理が軽く、手軽に適用できるのが特徴です。
フレームブレンドの適用方法
スロー再生にしたクリップを右クリックし、「補間」>「フレームブレンド」を選択することで適用できます。 [Original]
フレームブレンドは、動きの速いシーンや大幅なスロー再生では、映像がぼやけたり、二重に見えたりする場合があります。特に、静止している部分が多い映像には不向きなことがあります。
オプティカルフロー:AIが生成する究極の滑らかさ
「オプティカルフロー」は、Premiere Proが前後のフレームの動きを分析し、AIの技術で不足する中間フレームを生成する、より高度な補間機能です。これにより、元のフレームレートが低い素材でも、非常に滑らかなスローモーションを実現できます。
オプティカルフローの適用方法
フレームブレンドと同様に、スロー再生にしたクリップを右クリックし、「補間」>「オプティカルフロー」を選択します。

オプティカルフローは非常に強力な機能ですが、処理に時間がかかり、PCのスペックによってはプレビューが重くなることがあります。また、複雑な動きや背景が大きく変化するシーンでは、不自然なアーティファクト(ノイズ)が発生することもあるため、必ずプレビューで確認し、必要に応じてフレームブレンドとの使い分けを検討しましょう。
補間機能の選び方と使い分け
フレームブレンドとオプティカルフローは、それぞれ異なる特性を持っています。プロジェクトの要件や素材の特性に合わせて、最適な補間方法を選択することが重要です。以下にそれぞれの特徴をまとめました。
補間方法 | 処理内容 | メリット | デメリット | 推奨されるシーン |
---|---|---|---|---|
フレームサンプリング | 不足フレームを単純にスキップ | 処理が最も軽い | カクつきが発生する | 早送り、意図的にカクつきを出す演出 |
フレームブレンド | 前後のフレームを半透明で重ね合わせる | 処理が比較的軽い、そこそこ滑らか | 動きが速いとぼやける、二重に見える | 軽めのスロー再生、動きが少ないシーン |
オプティカルフロー | AIが中間フレームを生成 | 非常に滑らか、高品質なスローモーション | 処理が重い、不自然なアーティファクトが発生することも | 大幅なスロー再生、高品質な映像が求められるシーン |
多くのプロの動画クリエイターは、スローモーションの品質を最大限に高めるために、まずオプティカルフローを試します。もし不自然な点が見られる場合は、フレームブレンドに切り替えるか、元の素材のフレームレートを上げるなどの対策を検討します。
再生速度調整の応用テクニックとクリエイティブな活用例
Premiere Proの速度調整機能は、単に映像を速くしたり遅くしたりするだけでなく、様々なクリエイティブな表現に応用できます。プロの現場でも、これらのテクニックは頻繁に活用されています。
- **タイムラプス・ハイパーラプス:** 長時間の変化を短時間で見せるタイムラプスや、移動しながら撮影したハイパーラプスは、早送り機能を最大限に活用した代表的な例です。建造物の建設過程や植物の成長、街の移り変わりなどを印象的に表現できます。
- **コメディ・バラエティ演出:** 人物の動きを早送りにしてコミカルな印象を与えたり、逆にスローモーションでオーバーリアクションを強調したりと、バラエティ番組やYouTube動画で頻繁に用いられる手法です。
- **BGMとの同期:** 音楽のビートやリズムに合わせて映像の速度を変化させることで、視覚と聴覚が一体となったリズム感を生み出します。特にミュージックビデオやプロモーションビデオで効果的です。
- **感情の強調・ドラマチックな演出:** 重要な瞬間や感情的なシーンをスローモーションにすることで、視聴者にその瞬間をより深く感じさせ、感情移入を促します。スポーツのハイライトや感動的なドキュメンタリーなどでよく見られます。
- **教育・チュートリアルコンテンツ:** 特定の作業手順や複雑な動きをスローモーションで示すことで、視聴者が細部まで正確に理解できるようになります。料理動画やDIY、スポーツのフォーム解説などで役立ちます。
- **逆再生による不思議な表現:** 逆再生と速度調整を組み合わせることで、時間の逆行や超常現象のような不思議な映像を作り出すことができます。クリエイティブなアート作品やミュージックビデオで活用されます。

まとめ:Premiere Proの速度調整機能をマスターして表現の幅を広げよう
Premiere Proのレート調整ツールをはじめとする速度調整機能は、動画編集において非常に強力な武器となります。直感的な操作で素早く調整できるレート調整ツール、数値で正確に指定できる速度・デュレーション、そしてキーフレームで自在な速度変化を可能にするタイムリマップ。これらを使いこなすことで、単なる情報の伝達だけでなく、感情やメッセージをより深く伝える映像表現が可能になります。
また、スロー再生時のカクつきを解消するフレームブレンドやオプティカルフローといった補間機能は、プロ品質の滑らかな映像を実現するために不可欠です。それぞれの機能の特性を理解し、素材や目的に応じて適切に使い分けることが、視聴者の心に残る魅力的な動画を制作する鍵となります。
ぜひこの記事を参考に、Premiere Proの速度調整機能をマスターし、あなたの動画表現の可能性を最大限に引き出してください。練習を重ねることで、きっとあなたの動画はさらに魅力的になるでしょう。
