After Effects「暗く合成する」描画モード完全ガイド:乗算・比較(暗)で映像表現を深める

After Effectsで映像制作を行う上で、レイヤー同士を効果的に組み合わせる「描画モード」(ブレンドモード、合成モードとも呼ばれます)は、視覚表現の幅を格段に広げる強力な機能です。特に「暗く合成するグループ」は、影の作成、テクスチャの重ね合わせ、ノイズの追加、手書き文字の合成など、映像に深みと質感を加えるために頻繁に利用されます。

この記事では、After Effectsの描画モードの中でも「暗く合成するグループ」に焦点を当て、各モードの特性、計算原理、そして具体的な活用例を詳しく解説します。初心者の方から、さらに表現力を高めたい方まで、After Effectsでの合成スキルを向上させたいすべての方に役立つ内容です。

After Effects描画モードの基礎知識:合成の仕組みと操作方法

After Effectsの描画モードは、上のレイヤー(合成色)と下のレイヤー(基本色)のピクセル情報を計算し、新しい結果色を生成する機能です。これにより、レイヤーを重ねるだけで様々な視覚効果を生み出すことができます。PhotoshopなどのAdobe製品と共通の描画モードも多く、一度理解すれば他のソフトでも応用が利きます。

描画モードの表示と選択方法

描画モードは、タイムラインパネルのレイヤー名の右側に表示される「モード」列から選択します。デフォルトでは「通常」に設定されています。

タイムラインパネルで描画モードが表示されていない場合は、レイヤー名の部分を右クリックし、「列を表示」から「モード」を選択すると表示されます。

キーボードショートカットのShift + – または Shift + ^ を使うと、描画モードを順番に切り替えることができ、様々な効果を素早く試すことが可能です。

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描画モードは、レイヤーの不透明度とは異なり、ピクセルごとの色の計算に基づいて合成を行います。この違いを理解することが、より高度な合成表現への第一歩です。

「暗く合成する」描画モードグループの全貌と特性

After Effectsの描画モードは大きく6つのグループに分類されますが、今回ご紹介する「暗く合成するグループ」は、その名の通り、レイヤーを重ねることで全体的に暗く、または濃く合成する特性を持っています。

このグループに属する描画モードは以下の6つです。これらのモードは、明るい部分を透過させたり、暗い部分を強調したりする際に特に有効です。

  • 比較(暗)(Darken)
  • 乗算(Multiply)
  • 焼き込みカラー(Color Burn)
  • 焼き込みカラー(クラシック)(Classic Color Burn)
  • 焼き込みリニア(Linear Burn)
  • カラー比較(暗)(Darker Color)

合成例で見る「暗く合成する」描画モードの効果

以下の合成例では、風景画像にフラクタルノイズを適用した平面レイヤーを合成しています。各モードがどのように画像を暗く、または濃く合成しているかをご覧ください。

元画像:

比較(暗) 乗算 焼き込みカラー
焼き込みカラー(クラシック) 焼き込みリニア カラー比較(暗)

各描画モードの詳細解説と実践テクニック

1. 乗算(Multiply):最も汎用性の高い「影」と「透過」のモード

「暗く合成するグループ」の中で最も頻繁に利用されるのが「乗算」です。その名の通り、算数における掛け算のように、上のレイヤー(合成色)と下のレイヤー(基本色)のピクセル情報を掛け合わせて結果色を生成します。

乗算の計算式:合成後のピクセル = (合成色のピクセル値 × 基本色のピクセル値) / ピクセルの最大値

この計算原理により、結果色は元の色よりも明るくなることはありません。特に、どちらかの入力カラーが黒(値が0)の場合、結果色も黒になります。

「白が透明になる」乗算の特性

乗算モードの大きな特徴は、完全な白色が透明になる点です。これは、色の値を0.0(黒)から1.0(白)のスケールで考えると理解しやすくなります。掛け算において「1」は他の数値に影響を与えないため、白色(値が1.0)を掛けても下のレイヤーの色は変化しません。結果として、白い部分は透過され、下のレイヤーがそのまま表示されるのです。

この特性を活かすことで、白い背景に描かれた手書きの文字やイラスト、ノイズ、古いフィルムの傷やホコリといった素材を、背景を透過させて簡単に合成することができます。

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乗算は、影の作成やテクスチャの重ね合わせに非常に便利です。ただし、完全に白い部分しか透過しないため、グレーがかった背景の素材を合成する際には、期待通りの結果にならないことがあります。その場合は、レベル補正などで白を強調してから適用するか、他の描画モードも試してみましょう。また、乗算は「黒を掛けない限り黒にはならない」という特性も覚えておくと、より繊細な表現が可能です。

乗算での合成例:古いフィルムの質感を追加

白い背景にノイズや線が入った古いフィルムのような動画素材がある場合、乗算合成を利用すると、白い背景を簡単に除去し、フィルムの質感だけを映像に重ねることができます。

元画像:

フッテージ素材の上に古いフィルム素材を配置

写真素材を下に配置し、その上に古いフィルム風にエフェクトを施した平面レイヤーを配置しました。写真素材の彩度も落としています。

古いフィルム素材の描画モードを乗算に変更

描画モードを乗算に変更すると、白い背景領域が除去されて線やノイズだけが合成されました。これで乗算合成の完了です。

合成結果

白い部分が透明になって古いフィルムの質感だけが追加されました。白以外を暗く合成するのが乗算のポイントです。

2. 比較(暗)(Darken):暗いピクセルを優先する選択モード

「比較(暗)」モードは、上のレイヤー(合成色)と下のレイヤー(基本色)の各カラーチャンネル(R, G, B)のピクセル値を比較し、より暗い方のピクセル値を結果色として表示します。

比較(暗)の計算式:結果色の各チャンネル = min(合成色のチャンネル値, 基本色のチャンネル値)

乗算のように色を掛け合わせるのではなく、単純に「暗い方を採用する」ため、元の色の情報がより強く残る傾向があります。例えば、明るい部分が多いレイヤーを重ねても、下のレイヤーの暗い部分がそのまま維持されます。

活用例:複数のレイヤーから最も暗い部分だけを抽出したい場合や、特定の明るい色を別の暗い色に置き換えたい場合などに有効です。

3. 焼き込みカラー(Color Burn):コントラストを強調し、深みを出す

「焼き込みカラー」は、下のレイヤーのコントラストを強めながら、色を暗くする効果があります。写真の現像における「焼き込み」に似た効果で、暗い部分をより暗く、中間調のコントラストを強調します。

このモードは、質感の強調や、写真に深みを与えたい場合に特に役立ちます。例えば、古びた紙のテクスチャを重ねることで、よりリアルな質感を表現できます。

4. 焼き込みカラー(クラシック)(Classic Color Burn):旧バージョンとの互換性

「焼き込みカラー(クラシック)」は、After Effectsの旧バージョンとの互換性のために用意されている描画モードです。現在の「焼き込みカラー」と合成結果は同じであるため、通常は「焼き込みカラー」を使用すれば問題ありません。

5. 焼き込みリニア(Linear Burn):より強く暗く、ディテールを強調

「焼き込みリニア」は、下のレイヤーの色を線形に暗くする描画モードです。乗算や焼き込みカラーよりもさらに強く暗くなる傾向があります。

非常に強い影や、極端に暗い表現をしたい場合に有効ですが、色が黒に近づきすぎてディテールが失われる「黒飛び」が発生しやすい点に注意が必要です。

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焼き込みリニアは強力な効果を持つ反面、使いすぎると映像が潰れてしまうことがあります。不透明度を調整したり、マスクと組み合わせたりして、部分的に適用することで、より繊細な表現が可能です。

6. カラー比較(暗)(Darker Color):レイヤー全体の色を比較して暗い方を採用

「カラー比較(暗)」は、「比較(暗)」モードと非常に似ていますが、個々のカラーチャンネル(R, G, B)ごとに比較するのではなく、レイヤー全体の色(輝度や総合的な明るさ)を比較し、より暗い色を結果として表示します。

このモードは、特定の色の置き換えや、色調補正の際に、元のレイヤーの色を大きく変えずに暗い部分を強調したい場合に役立ちます。

プロが教える!「暗く合成する」描画モードの応用術

効果的なモード選択ガイド

描画モードは、目的によって最適なものが異なります。以下の表を参考に、あなたの表現したい効果に合わせてモードを選択しましょう。

目的 推奨モード 特徴・注意点
影の作成 乗算 最も一般的で自然な影を表現。白は透過。
手書き文字やイラストの合成 乗算 白い背景の素材に最適。
テクスチャやノイズの追加 乗算、比較(暗) より強い効果が必要なら焼き込みカラー、焼き込みリニアも検討。
写真や映像のコントラスト強調 焼き込みカラー 暗い部分をより暗く、中間調のコントラストを強調。
特定の明るい部分を暗くしたい 比較(暗)、カラー比較(暗) 暗いピクセルを優先的に表示。
非常に強い影や極端な暗い表現 焼き込みリニア 黒飛びに注意。不透明度調整やマスクと併用。

不透明度、マスク、カラー補正との組み合わせ

描画モードは単独で使うだけでなく、レイヤーの「不透明度」を調整することで、効果の強さを微調整できます。また、レベル補正やカーブなどのカラー補正エフェクトと組み合わせることで、より複雑で魅力的な表現が可能です。

例えば、乗算で合成したレイヤーに「ブラー(ガウス)」を適用して、柔らかい影を作ることもできます。これにより、より自然な奥行き感を演出することが可能です。

レイヤーの重なり順の重要性

描画モードは、上のレイヤーが下のレイヤーにどのように作用するかを決定します。そのため、レイヤーの重なり順によって合成結果が大きく変わる場合があります。意図した効果が得られない場合は、レイヤーの順番を入れ替えてみることも試してみてください。

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描画モードは、実際に試しながら最適なものを見つけるのが一番の近道です。After Effectsのタイムラインパネルで描画モードを切り替えながら、リアルタイムで結果を確認し、様々な組み合わせを試してみましょう。感覚的に理解を深めることが、プロのクリエイターへの道です。

よくある疑問とトラブルシューティング

描画モードが表示されない

タイムラインパネルの「モード」列が非表示になっている可能性があります。レイヤー名の部分を右クリックし、「列を表示」から「モード」にチェックを入れてください。

乗算で白が透明にならない

乗算モードは「完全な白」(RGB値がすべて255)を透明にします。もし白が残ってしまう場合は、その部分が純粋な白ではない可能性があります。レベル補正やカーブエフェクトを使って、白い部分をより白く調整することで、透過させることができます。

意図しない結果になる

描画モードはピクセル単位の計算に基づいていますが、レイヤーの色や明るさ、コントラストによって結果が大きく異なります。期待通りの結果にならない場合は、以下の点を確認してみましょう。

  • レイヤーの色と明るさ: 合成したいレイヤーの色や明るさが、描画モードの計算にどのように影響するかを理解する。
  • コントラスト: レイヤーのコントラストが強すぎると、意図しない「黒飛び」や「白飛び」が発生することがあります。
  • レイヤーの順番: 上下のレイヤーの重なり順が正しいか確認する。
  • 不透明度: 不透明度を調整して、効果の強さを微調整する。
  • 他のエフェクトとの干渉: 描画モード以外のエフェクトが、合成結果に影響を与えている可能性も考慮する。

まとめと次のステップ

After Effectsの「暗く合成する」描画モードグループは、映像に深みと質感を加えるための非常に強力なツールです。「乗算」をはじめとする各モードの特性と計算原理を理解し、目的に応じて使いこなすことで、あなたの映像表現の幅は大きく広がります。

描画モードは、After Effectsにおける合成の基礎であり、クリエイティブな表現の可能性を無限に秘めています。今回解説した「暗く合成する」グループだけでなく、他の描画モードグループについても学ぶことで、さらに高度な合成テクニックを習得できるでしょう。

ぜひ、様々な素材で実際に試しながら、それぞれの描画モードがもたらす効果を体感してください。実践を重ねることで、あなたのAfter Effectsスキルは飛躍的に向上するはずです。

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