動画編集やグラフィックデザインにおいて、複数のレイヤーを重ねて視覚効果を生み出す「描画モード」は、クリエイティブな表現に欠かせない機能です。特に、色の三要素であるHSB(色相:Hue / 彩度:Saturation / 明度:Brightness)を基にした描画モードは、RGB値とは異なるアプローチで、より直感的に色の表現をコントロールできる強力なツールとなります。
「下のレイヤーの輝度やコントラストはそのままに、上のレイヤーの色だけを適用したい」「モノクロ素材に自然な色をつけたい」といった、繊細な色調整や特殊な合成を実現したい場合に、HSB描画モードは非常に役立ちます。
このページでは、After EffectsやPhotoshopなど多くのソフトウェアに共通するHSB描画モードの基本から、それぞれの特性、そして実践的な活用例までを詳しく解説します。描画モードの概念を深く理解し、あなたの映像表現の幅を格段に広げましょう。
HSBを基に合成する4つの描画モードとは?
HSB(色相・彩度・明度)を基に合成を行う描画モードは、主に以下の4つがあります。これらのモードは、上のレイヤー(合成色)と下のレイヤー(基本色)のHSB値をどのように組み合わせるかによって、異なる合成結果を生み出します。それぞれのモードが持つ特性を理解することが、意図した表現を実現する鍵となります。
- 色相(Hue): 上のレイヤーの色相を、下のレイヤーの彩度と明度(輝度)に適用します。これにより、元の画像の明るさや鮮やかさを維持したまま、色味だけを大きく変更することが可能です。
- 彩度(Saturation): 上のレイヤーの彩度を、下のレイヤーの色相と明度(輝度)に適用します。画像の鮮やかさや色の濃淡を調整したい場合に有効です。
- カラー(Color): 上のレイヤーの色相と彩度を、下のレイヤーの明度(輝度)に適用します。明るさに影響を与えず、純粋に色だけを変更したい場合に最適です。
- 輝度(Luminosity): 上のレイヤーの明度(輝度)を、下のレイヤーの色相と彩度に適用します。色味に影響を与えることなく、画像の明るさやコントラストを調整できます。
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HSB描画モードの合成例で視覚的に理解する
ここでは、風景画像にフラクタルノイズを適用した平面レイヤーを合成した際の、各モードでの合成結果を見てみましょう。これにより、それぞれのモードがどのように画像に影響を与えるかを視覚的に理解できます。
元画像:
合成後
色相 | 彩度 | カラー |
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輝度 | ||
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HSB描画モードは、特にカラーグレーディングや色調補正において強力な効果を発揮します。RGBベースの調整では難しい、特定の色要素のみを変更したい場合に試してみてください。
カラーモードの深掘り:色と輝度の融合
HSB描画モードの中でも特に利用頻度が高いのが「カラー」モードです。このモードは、最上位レイヤー(合成色)の「色相と彩度」を抽出し、下にあるレイヤー(基本色)の「明度(輝度)」と組み合わせて結果を返します。つまり、上のレイヤーの色の情報(色相と彩度)だけを下のレイヤーに適用し、明るさには影響を与えないのが特徴です。
カラーモードは、白黒のグレースケール素材に着色したり、元々ある素材の色を変更したり、映像全体の雰囲気を調整したりする場合に非常に有効です。
カラーモードのポイント
- 上のレイヤーの色相と彩度を利用します。
- 下のレイヤーの明度(輝度)を利用して結果を返します。
- 明るさには影響を与えず、純粋に色だけを変更したい場合に最適です。
実践!カラーモードを使った着色テクニック
ここでは、キラキラと輝くモノクロのパーティクル素材に着色する例を通して、カラーモードの具体的な使い方を解説します。
元画像:
ステップ1:レイヤーを配置
まず、下にキラキラと輝くパーティクルのグレースケール素材を配置します。その上に、好みのカラーの平面レイヤーを配置します。この例では、上のレイヤーにグラデーションを適用しています。
ステップ2:描画モードをカラーに変更
次に、上のグラデーションレイヤーの描画モードを「カラー」に変更します。これにより、上のレイヤーの色相と彩度が、下のレイヤーの明度と組み合わされ、合成結果が生成されます。
ステップ3:カラーが素材に適用されました
上の平面レイヤーのカラーが、下の写真レイヤーに合成されました。明るさには影響を与えずに純粋に色だけを変更させている点が、カラーモードの大きな利点です。色相・彩度エフェクトで色相を変更する方法も有効ですが、描画モードを使うことでより手軽に色味を調整できます。

カラーモードは、特にモノクロ素材への着色や、映像全体のトーンを統一したい場合に重宝します。例えば、古い映像にセピア調の色味を加えたり、特定のシーンにドラマチックな色合いを付与したりする際に試してみてください。
HSB描画モードの応用と実践的なヒント
HSB描画モードは、単に色を変えるだけでなく、様々なクリエイティブな表現に応用できます。ここでは、より実践的なヒントと、他の描画モードとの比較を交えながら、HSB描画モードの活用法を探ります。
色相モードの活用例
色相モードは、下のレイヤーの彩度と明度を保ちつつ、上のレイヤーの色相のみを適用します。これにより、元の画像の明るさや鮮やかさを維持したまま、色味だけを大きく変更することが可能です。例えば、季節感を変更したい風景写真や、特定のオブジェクトの色だけを変えたい場合に有効です。
ワンポイントアドバイス:写真や映像の色味をガラッと変えたいけれど、元の質感は残したい場合に色相モードは非常に強力です。例えば、夏の風景を秋の夕焼け色に、冬の雪景色を幻想的な青色に、といった大胆な色変換も自然に行えます。
彩度モードの活用例
彩度モードは、下のレイヤーの色相と明度を保ちつつ、上のレイヤーの彩度のみを適用します。これにより、画像の鮮やかさや色の濃淡を調整できます。例えば、色褪せた映像に活気を取り戻したり、逆に彩度を落として落ち着いた雰囲気を演出したりする際に役立ちます。

彩度モードは、特定の色だけを強調したり、逆に彩度を下げてドラマチックなモノクローム効果を部分的に加えたりする際に便利です。例えば、人物の肌の色はそのままに、背景の鮮やかさだけを調整するといった使い方も可能です。
輝度モードの活用例
輝度モードは、下のレイヤーの色相と彩度を保ちつつ、上のレイヤーの明度(輝度)のみを適用します。これにより、画像の明るさやコントラストを、色味に影響を与えることなく調整できます。例えば、暗い映像を明るく補正したり、ハイライトやシャドウを強調したりする際に非常に便利です。
「輝度」と「明度」は似ていますが、厳密には異なります。「明度」が色の明るさの絶対値を示すのに対し、「輝度」は人間が感じる明るさを考慮した値です。例えば、同じ明度でも黄色は明るく、青は暗く感じられるのは輝度の違いによるものです。輝度モードは、この「人間が感じる明るさ」を基準に調整を行うため、より自然な明るさ補正が可能です。

輝度モードは、特にカラーコレクションの初期段階で役立ちます。色味を損なわずに明るさのバランスを整えることで、その後のカラーグレーディングがよりスムーズに進みます。また、白黒のテクスチャを重ねて、元の色を保ちつつ質感だけを強調するような使い方もできます。
他の描画モードとの使い分け
描画モードにはHSBグループ以外にも、「比較(暗)」「乗算」「スクリーン」「オーバーレイ」など、様々な種類があります。それぞれのモードが持つ特性を理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。例えば、光の表現には「スクリーン」や「加算」モードが、影の表現には「乗算」モードがよく使われます。
描画モードは、単一の機能として捉えるのではなく、複数のモードを組み合わせることで、より複雑で魅力的な視覚効果を生み出すことができます。例えば、カラーモードで色味を調整した後、オーバーレイモードでコントラストを強調するといった使い方も可能です。
After Effectsでの描画モード操作と学習リソース
After Effectsで描画モードを適用するのは非常に簡単です。タイムラインパネルのレイヤーを選択し、「モード」列から目的の描画モードを選択するだけです。もし「モード」列が表示されていない場合は、タイムラインパネル左下の「転送制御のスイッチ/モード」ボタンを押すと表示されます。
描画モードは、感覚的に使用する部分も多いですが、それぞれのモードがどのような計算に基づいて合成を行っているかを大まかに理解することで、より意図した表現に近づけることができます。
描画モードを練習できるAEPファイル
以下のAEPファイルには、白黒の素材とカラー適用した平面を合成して着色する、このページで紹介した内容が同梱されています。色を変更したい場合、このカラーモードを利用する方法以外にも、エフェクトには様々な選択肢があります。最終的な見た目を作るためのアプローチ方法は様々考えられますので、必ずしもこの描画モードを利用しないといけない訳ではありませんが、有効な選択肢の一つとして習得しておいて間違いはありません。
以下のファイルは自由にダウンロードして練習にお使いいただけます。After Effectsを勉強中の方に是非お役立て頂ければ幸いです。
描画モードは、After Effectsのタイムラインパネルから変更できます。表示されていない場合は、タイムラインパネル左下の「転送制御のスイッチ/モード」ボタンを押すと表示されます。

描画モードは、感覚的に使用する部分も多いですが、それぞれのモードがどのような計算に基づいて合成を行っているかを大まかに理解することで、より意図した表現に近づけることができます。
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描画モードには様々な種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。HSB描画モードと合わせて、他の描画モードについても学ぶことで、あなたの映像表現の幅はさらに広がります。以下の記事も参考に、描画モードの知識を深めていきましょう。
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まとめ
動画編集における描画モードは、映像表現の可能性を無限に広げる強力な機能です。特にHSBを基にした描画モードは、色と明るさを個別にコントロールできるため、より繊細でクリエイティブな調整が可能になります。本記事で紹介した内容を参考に、ぜひ様々な素材で試してみて、あなた自身の表現を見つけてください。描画モードをマスターし、視聴者を魅了する映像作品を生み出しましょう。