After Effectsにおける描画モードは、複数のレイヤーを重ね合わせた際に、それぞれのピクセルがどのように混ざり合い、最終的な画像が生成されるかを決定する、映像制作において不可欠な機能です。特に「明るく合成するグループ」は、映像に光、輝き、炎、爆発、幻想的なノイズなどの要素を加える際に頻繁に用いられ、その表現の幅を飛躍的に広げます。
この記事では、After Effectsの描画モードの中でも、特に「明るく合成する」ことに特化した7つのモードに焦点を当て、それぞれの特徴、計算原理、効果、そして具体的な活用方法をプロの視点から詳しく解説します。加算やスクリーンといった頻繁に利用されるモードはもちろん、比較(明)や覆い焼きカラーなどの応用的なモードについても深掘りし、あなたの映像制作スキルを一段階引き上げるための実践的な知識を提供します。
After Effects 描画モードの基本と「明るく合成するグループ」の概要
After Effectsの描画モードは、レイヤーのピクセルが下のレイヤーのピクセルとどのように相互作用するかを定義する機能です。これにより、単にレイヤーを重ねるだけでは得られない、複雑で魅力的な視覚効果を生み出すことができます。描画モードは大きく6つのグループに分類され、それぞれが特定の合成目的に特化しています。
描画モードは、タイムラインパネルの「モード」列から変更できます。もし「モード」列が表示されていない場合は、タイムラインパネルの左下にある「転送制御のスイッチ/モード」ボタンをクリックするか、F4キーを押すことで表示を切り替えられます。
その中でも「明るく合成するグループ」は、その名の通り、下のレイヤーに対して上のレイヤーの明るい部分を強調したり、光の要素を加えたりする際に用いられます。爆発や炎、キラキラとした光、幻想的なノイズなどを合成する場面で特に威力を発揮します。このグループに属するモードは、一般的に黒い部分を透明にして合成する特性を持っています。
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明るく合成する描画モードの種類
このグループには、以下の7つの描画モードが含まれます。それぞれに独自の計算方法と表現特性があり、目的とする効果に応じて使い分けることが重要です。
- 加算(Add)
- 比較(明)(Lighten)
- スクリーン(Screen)
- 覆い焼きカラー(Color Dodge)
- 覆い焼きカラー(クラシック)(Classic Color Dodge)
- 覆い焼きリニア(Linear Dodge)
- カラー比較(明)(Lighter Color)

描画モードは、実際に適用して結果を見ながら調整するのが一番の近道です。まずは気軽に試してみましょう。
【徹底比較】加算(Add)とスクリーン(Screen)の深掘り
「明るく合成するグループ」の中でも、特に頻繁に利用され、その特性を理解することが合成の質を大きく左右するのが「加算」と「スクリーン」です。これらのモードは、黒い部分を透明にして光や輝きを合成する際に非常に便利です。
加算(Add)モードの仕組みと活用
加算モードは、その名の通り、重ねるレイヤー(合成色)と下のレイヤー(基本色)のピクセルごとのRGB値を単純に「足し算」して合成します。
RGB値は0(黒)から1(白)の範囲(8bitの場合0~255)で表現されます。例えば、0.3の明るさのピクセルと0.6の明るさのピクセルを加算すると、結果は0.9となり、より明るい色になります。
この計算特性により、RGB値が0である「黒」は、何度足し算しても結果に影響を与えません(例:0.4 + 0 = 0.4)。そのため、加算モードで合成を行うと、上のレイヤーの黒い部分は自動的に透明になり、光や輝き、炎、爆発などの黒背景の素材を自然に合成することができます。
加算モードは、非常に強い光の表現や、白飛びを恐れずに明るさを強調したい場合に適しています。しかし、値が1(255)を超えると白くクリップ(飽和)するため、細部の情報が失われる可能性があります。

加算は、光の強さを最大限に引き出したいときに最適です。例えば、レンズフレアや爆発の炎など、純粋な光の要素を際立たせたい場合に試してみてください。
スクリーン(Screen)モードの仕組みと活用
スクリーンモードは、加算と同様に画像を明るく合成しますが、その計算方法は異なります。具体的には、重ねるレイヤーと下のレイヤーの色の「反転値」を乗算し、その結果を再度反転させることで明るい色を生成します。これは、乗算モードの逆の処理と考えると理解しやすいでしょう。
スクリーンモードも加算と同様に、黒い部分を透明にして合成する特性を持っています。しかし、加算に比べて光の表現がマイルドで、白飛びしにくい傾向があります。これは、ビデオ制作の現場で「オーバーブライト(白飛び)をなくす」目的で開発された経緯があるためです。
スクリーンモードは、加算ほど強烈な光ではなく、より自然で柔らかい光の表現や、繊細な輝きを加えたい場合に適しています。例えば、霧や煙、オーロラのような半透明で広がる光の表現、あるいは雨や雪、煙などの大気中の要素を合成する際に効果的です。

スクリーンは、光を柔らかく馴染ませたいときに重宝します。背景に自然に溶け込むような光のエフェクトや、複数の光を重ねて複雑な輝きを表現する際に試してみてください。
プロが教える加算とスクリーンの使い分けと組み合わせ技
加算とスクリーンはどちらも黒を透過して明るく合成するモードですが、その効果には明確な違いがあります。プロの現場では、この2つのモードを使い分けるだけでなく、両方を組み合わせて使うこともよくあります。
描画モード | 特徴 | 適したシーン |
---|---|---|
加算(Add) | ・RGB値を単純に足し算 ・より明るく、コントラストが強い ・白飛びしやすい |
・爆発、炎、レーザーなど、強烈な光の表現 ・光の存在感を際立たせたい場合 |
スクリーン(Screen) | ・色の反転値を乗算 ・マイルドで柔らかい光 ・白飛びしにくい |
・レンズフレア、グロー、オーロラなど、自然な光の表現 ・背景に馴染ませたい場合 |
例えば、加算で光の核となる強い部分を作り、その上にスクリーンで柔らかい光の広がりを加えることで、よりリッチで奥行きのある光の表現が可能です。これは、単一のモードでは得られない複雑な輝きを生み出すテクニックとして非常に有効です。


知っておきたい!その他の「明るく合成する」描画モード
加算とスクリーン以外にも、明るく合成するグループには、特定の状況で非常に役立つモードが含まれています。これらのモードを理解することで、さらに表現の幅が広がります。
比較(明)(Lighten)
比較(明)モードは、重ねるレイヤーと下のレイヤーのピクセルを比較し、それぞれのRGBチャンネルでより明るい方の色を採用して合成します。 暗いピクセルは置き換えられ、明るいピクセルはそのまま残るため、元の画像よりも暗くなることはありません。 複数の素材から最も明るい部分だけを抽出したい場合や、明るいテクスチャを重ねて自然な明るさの変化を加えたい場合などに有効です。
覆い焼きカラー(Color Dodge)
覆い焼きカラーモードは、下のレイヤーを明るくしつつ、コントラストを弱めて合成します。 これにより、明るくなりながらも色のメリハリが柔らかくなる特徴があります。非常に強い発光効果を生み出すことがありますが、場合によっては色が飽和しすぎたり、不自然な色合いになったりすることがあるため、不透明度を調整しながら使用するのがおすすめです。 「焼き込みカラー」モードとは逆の働きをします。
覆い焼きカラー(クラシック)(Classic Color Dodge)
このモードは、After Effects 5.0以前の「覆い焼きカラー」モードとの互換性のために用意されています。 現在の覆い焼きカラーとほとんど同じ結果になりますが、古いプロジェクトを開く際などにその存在を覚えておくと良いでしょう。
覆い焼きリニア(Linear Dodge)
覆い焼きリニアモードは、重ねるレイヤーの明るさを増して、下のレイヤーと合成します。 加算モードと非常に似た結果になることが多いですが、加算が単純な足し算であるのに対し、覆い焼きリニアはより線形的な明るさの増加をもたらします。 純粋な黒は透過されます。
カラー比較(明)(Lighter Color)
カラー比較(明)モードは、比較(明)モードと似ていますが、個々のRGBチャンネルではなく、レイヤー全体のカラー値を比較して、より明るい方の色を適用します。 これにより、色の情報全体を考慮した上で、明るい部分が残るように合成されます。

各描画モードには微妙な特性の違いがあります。特に覆い焼き系は、不透明度や色合いの調整が重要になることが多いので、試行錯誤を重ねて理想の表現を見つけましょう。
【実践】「明るく合成する」描画モードの応用例
ここでは、「明るく合成する」描画モードが実際の映像制作でどのように活用できるか、具体的な例を挙げて解説します。
合成例1:風景画像へのノイズ合成
風景画像にフラクタルノイズを適用した平面レイヤーを合成し、各描画モードでの結果を比較してみましょう。ノイズを光や霞のように見せたい場合に、これらのモードが役立ちます。
元画像:
合成後:各描画モードの結果
加算 | 比較(明) | スクリーン |
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覆い焼きカラー | 覆い焼きカラー(クラシック) | 覆い焼きリニア |
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カラー比較(明) | ||
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合成例2:光物(フレア・パーティクル)の合成
キラキラと光を放つフレア素材やパーティクル素材は、