Adobe Premiere Proは、プロフェッショナルな動画編集に欠かせないツールですが、タイムラインでの詳細な編集作業に入る前に、映像全体の構成を大まかに組み立てる「ストーリーボード編集」の概念を取り入れることで、作業効率を飛躍的に高めることができます。Premiere Proには、絵コンテを描くような専用のストーリーボード機能はありませんが、プロジェクトパネルの「ビン(フォルダ)」と「シーケンスオート編集」機能を組み合わせることで、これに近い効率的なワークフローを実現できます。
このページでは、Premiere Proで動画の骨組みをざっくりと構成し、大量のクリップを効率的に整理・配置するための「ストーリーボード編集」の具体的な方法と、そのメリットについて詳しく解説します。長尺動画の編集や、複数の素材を扱うプロジェクトで、全体の流れをスムーズに構築したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
Premiere Proにおけるストーリーボード編集とは?
一般的な動画制作における「ストーリーボード」とは、映像の設計図として、各シーンの絵や構成、セリフなどを視覚的にまとめたものを指します。しかし、Premiere Proにおける「ストーリーボード編集」は、この絵コンテ作成とは少し異なり、タイムラインにクリップを配置する前の段階で、素材の順番を整理し、大まかな構成を練るワークフローを指します。
具体的には、プロジェクトパネル内の「ビン」と呼ばれるフォルダを活用して、使用するクリップをシーンごとや時系列順に並べ替え、その並び順を基に「シーケンスオート編集」機能を使って一括でタイムラインに配置します。これにより、手動で一つずつクリップをドラッグ&ドロップする手間を省き、効率的に動画の骨組みを作成することが可能になります。
ストーリーボード編集のメリットと活用シーン
Premiere Proでのストーリーボード編集は、特に大規模なプロジェクトや長尺動画の編集において、その真価を発揮します。初期段階で全体の流れを把握し、効率的な作業フローを確立するための強力な手段となります。
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メリット
- 長尺動画の効率的な骨組み作成: 数十分に及ぶ長編動画や、多数のクリップを使用するプロジェクトにおいて、最初に大まかなストーリーや骨組みを組むことで、その後の詳細な編集作業が格段にスムーズになります。
- 全体の流れを素早く把握: タイムラインに配置する前に、プロジェクトパネル上でクリップの並びを確認することで、映像全体の流れや構成を視覚的に把握しやすくなります。
- 大量の素材を効率的に整理・配置: イベント記録やドキュメンタリーなど、大量の素材がある場合でも、ビンで整理し、一括でタイムラインに配置できるため、手動でのドラッグ&ドロップの手間を大幅に削減できます。
- 編集時間の短縮: 初期段階での構成決定と自動配置により、無駄な試行錯誤を減らし、全体の編集時間を短縮することに繋がります。
活用シーン
- イベント記録やドキュメンタリー: 時系列に沿って素材を並べたい場合に、ビンで整理してから一括配置することで、初期のラフカットを素早く作成できます。
- VlogやYouTube動画: 複数の短いクリップを組み合わせてストーリーを作る際に、事前にビンで構成を練ることで、スムーズな編集が可能です。
- プレゼンテーション動画: スライドごとにクリップを整理し、順番に配置することで、構成の確認と調整が容易になります。
Premiere Proでストーリーボード編集を行う準備
Premiere Proでストーリーボード編集を行うには、まず素材の整理が重要です。プロジェクトパネルの「ビン」を効果的に活用し、編集しやすい環境を整えましょう。
3.1 プロジェクトパネルでの素材整理とビンの活用
Premiere Proのプロジェクトパネルは、動画、画像、音声などのあらゆる素材を管理する場所です。ここで「ビン」と呼ばれるフォルダを作成し、素材を種類やシーンごとに分類することで、後からの検索や管理が非常に楽になります。
素材を読み込む際には、フォルダごと読み込むと自動的にビンとして反映されます。個別に読み込んだ場合は、プロジェクトパネル下部のフォルダアイコンをクリックして新規ビンを作成し、ドラッグ&ドロップで素材を格納しましょう。
ビン内では、クリップをアイコン表示に切り替えることで、サムネイルで内容を確認しながら視覚的に並べ替えることができます。この並び順が、後述する「シーケンスオート編集」の「ソート順」に影響します。

ビンを階層化して、さらに細かく素材を分類することも可能です。例えば、「撮影日」のビンの中に「シーン1」「シーン2」といったビンを作成すると、より整理しやすくなります。
「シーケンスオート編集」でタイムラインに配置する手順
素材の整理と並べ替えが完了したら、いよいよ「シーケンスオート編集」機能を使って、ビンで構成した順番通りにクリップをタイムラインに配置します。この機能は、大量のクリップを一度に扱う際に非常に便利です。
4.1 ビン内でクリップの順番を決定する
シーケンスに配置したいクリップをビン内で選択し、その順番を決定します。この際、以下の2つの方法があります。
- ソート順: プロジェクトパネルで設定されているソート順(名前順、日付順など)に従って配置されます。
- 選択順: クリップを選択した順番に配置されます。アイコン表示でサムネイルを確認しながら、Ctrl(MacではCommand)キーを押しながらクリックしていくことで、意図した順番に選択できます。

特に「選択順」で配置したい場合は、アイコン表示にしてサムネイルで内容を確認しながら、慎重にクリックしていくことが重要です。これにより、タイムラインに配置された後の修正作業を最小限に抑えられます。
4.2 シーケンスオート編集ダイアログの設定
ビン内でクリップの選択と順番の決定ができたら、以下の手順でタイムラインに配置します。
- 配置したいシーケンスのタブをクリックして開きます。
- ビン内で、タイムラインに配置したいクリップを全て選択します。
- メニューバーの「クリップ」から「シーケンスオート編集」を選択するか、プロジェクトパネル下部の「シーケンスオート編集」ボタンをクリックします。
「シーケンスオート編集」ダイアログが表示されたら、以下の項目を設定します。
項目 | 設定 | 説明 |
---|---|---|
並び | 配置順 / 選択順 | クリップをタイムラインに配置する際の順序を指定します。ビンでのソート順か、選択した順序かを選びます。 |
配置 | 一定に配置 / 番号なしマーカーに配置 | クリップの配置方法を指定します。「一定に配置」はクリップを連続して配置し、「番号なしマーカーに配置」はシーケンス上のマーカー位置に配置します。 |
置き換え方法 | 上書き保存 / 挿入 / 置き換え | 既存のクリップがある場合に、どのように配置するかを指定します。通常は「上書き保存」で問題ありません。 |
トランジション | ビデオトランジションを適用 / オーディオトランジションを適用 | クリップ間にデフォルトのトランジションを自動で挿入するかどうかを選択します。チェックを入れると、その下の「クリップオーバーラップ」でトランジションの長さを設定できます。 |

トランジションは後から個別に調整することも可能です。まずは全体の骨組みを素早く作成したい場合は、トランジションのチェックを外してシンプルに配置するのも一つの手です。
4.3 タイムラインへの自動配置と確認
OKボタンを押すと、設定した内容に基づいて、ビンで整理したクリップが自動的にシーケンス内に配置されます。
この段階で、動画全体の骨組みが完成します。ここからタイムラインに移行し、個々のクリップのトリミング、エフェクト、テロップ、BGMなどの詳細な編集作業を進めていくことになります。
ストーリーボード編集をさらに効率化するヒント
Premiere Proでのストーリーボード編集を最大限に活用するために、さらにいくつかのヒントをご紹介します。
5.1 サブクリップの活用
長尺のマスタークリップから、必要な部分だけを「サブクリップ」として切り出してビンに整理することで、より効率的に素材を管理し、ストーリーボード編集に活用できます。

5.2 マーカーの活用
シーケンスマーカーをタイムラインに事前に配置しておき、「シーケンスオート編集」の「番号なしマーカーに配置」オプションを使用することで、特定のタイミングにクリップを正確に配置できます。これは、音楽のビートに合わせてクリップを配置したい場合などに特に有効です。

5.3 タイムライン操作の基本を習得する
ストーリーボード編集で大まかな構成を作った後は、タイムラインでの詳細な編集が中心となります。タイムラインの拡大・縮小、移動、クリップのトリミングといった基本操作を習得しておくことで、その後の作業効率が大きく向上します。

5.4 AIによる未来のストーリーボード作成(補足)
Adobeは近年、Premiere Proへの生成AI機能の導入を進めており、将来的にはAIがプロンプトや参照画像に基づいてストーリーボードのアイデアを自動生成する機能も検討されています。 現時点では手動での整理が中心ですが、AI技術の進化により、さらに効率的なプリプロダクションが可能になるかもしれません。
まとめ:効率的な動画編集の第一歩
Premiere Proにおける「ストーリーボード編集」は、専用の描画ツールではなく、プロジェクトパネルでのクリップ整理と「シーケンスオート編集」機能を組み合わせた、効率的なワークフローを指します。この方法を習得することで、特に長尺動画や大量の素材を扱うプロジェクトにおいて、動画全体の骨組みを素早く、かつ論理的に構築することが可能になります。
初期段階で全体の流れを把握し、効率的な配置を行うことで、その後の詳細な編集作業に集中でき、結果として動画制作全体の時間を大幅に短縮できます。ぜひ、今回ご紹介した手順とヒントを参考に、ご自身の動画編集フローに「ストーリーボード編集」を取り入れてみてください。自分に合った最適な編集方法を見つけることが、高品質な動画制作への第一歩となるでしょう。