動画制作において、映像の美しさはもちろん重要ですが、実は「音質」も視聴体験を大きく左右する要素です。どんなに素晴らしい映像でも、背景に「サー」という雑音や「ブーン」というハムノイズ、あるいは耳障りな風切り音が入っていると、視聴者はすぐに離れてしまう可能性があります。特に、自宅で録画を行うYouTuberの動画などでも、ノイズが気になるケースは少なくありません。
しかし、ご安心ください。Apple製品に標準搭載されている動画編集ソフト「iMovie」には、動画クリップに含まれるオーディオの音質を調整するための強力な機能が備わっています。このページでは、iMovieを使って不要なノイズを除去し、さらにイコライザプリセットを適用して音質を最適化する方法を、プロの視点から徹底解説します。あなたの動画を、よりクリアでプロフェッショナルなサウンドに生まれ変わらせましょう。
動画の質を左右する「音」の重要性
動画コンテンツにおいて、音質は映像と同等、あるいはそれ以上に重要な役割を担っています。なぜなら、人間の脳は視覚情報よりも聴覚情報に敏感に反応し、音の良し悪しが動画全体の印象を大きく左右するからです。
- 視聴体験の向上: クリアで聞き取りやすい音声は、視聴者がコンテンツに集中し、メッセージを正確に理解する手助けとなります。逆にノイズが多いと、視聴者は不快感を覚え、動画から離脱する原因となります。
- プロフェッショナルな印象: 高品質な音響は、動画制作者のプロ意識を伝え、コンテンツ全体の信頼性を高めます。ビジネス用途やブランディングにおいても、音質は非常に重要な要素です。
- 感情への訴求: BGMや効果音、そして話し声の音質は、視聴者の感情に直接訴えかけ、動画のメッセージをより深く印象づける力を持っています。
動画の音質は、単なる技術的な問題ではなく、視聴者とのコミュニケーションの質を高めるための重要な投資と考えるべきです。特に、YouTubeやSNSなど、多くの動画が溢れる現代において、音質は差別化の大きなポイントとなります。
iMovieで対処できるノイズの種類と特徴
動画に混入するノイズにはいくつかの種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。iMovieでは、主に以下のノイズに対して効果的な軽減・除去が可能です。
- 背景ノイズ(ホワイトノイズ、サー音): エアコンの稼働音、パソコンのファンの音、部屋の残響音など、定常的に発生する「サー」という低い雑音です。多くの動画で最も頻繁に遭遇するノイズと言えるでしょう。
- ハムノイズ(ブーン音): 電源ケーブルや電子機器からの電気的な干渉によって発生する「ブーン」という低い周波数のノイズです。特に、オーディオケーブルの品質が悪い場合や、アースが適切でない環境で発生しやすい傾向があります。
- 風切り音: 屋外での撮影時や、マイクに直接風が当たることで発生する「ボコボコ」という音や「ゴー」という風の音です。マイクのウィンドスクリーン(風防)がない場合に顕著になります。
- 静電気ノイズ: 電子機器の接触不良やケーブルの劣化などによって発生する「パチパチ」といったノイズです。
iMovieのノイズ除去機能は非常に優秀ですが、すべてのノイズを完全に消し去ることは難しい場合もあります。特に、突発的な大きな物音や、話し声と周波数が重なるような複雑なノイズは、完全に除去すると音声が不自然になる可能性があります。しかし、一般的な背景ノイズやハムノイズであれば、iMovieで十分に改善が期待できます。
【Mac版iMovie】ノイズ・雑音を軽減・除去する手順
Mac版iMovieでは、簡単な操作で背景ノイズを軽減・除去することができます。以下の手順で試してみましょう。
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1. オーディオクリップの選択
まず、ノイズを除去したい動画クリップ、またはオーディオクリップをタイムライン上で選択します。クリップが黄色い枠で囲まれていることを確認してください。
2. 「ノイズリダクションおよびイコライザ」メニューの表示
プレビュー画面の上部にあるツールバーの中から、グラフのようなアイコン(「ノイズリダクションおよびイコライザ」ボタン)をクリックします。これにより、オーディオ調整に関するメニューが表示されます。
3. 「背景ノイズを軽減」の有効化
表示されたメニューの中にある「背景ノイズを軽減」の横にあるチェックボックスをオンにします。これで、iMovieが自動的に背景ノイズの軽減を適用します。
4. スライダーでの微調整のコツ
「背景ノイズを軽減」の右側に表示されているスライダーを左右にドラッグして動かすことで、どの程度ノイズを低減させるかを調整できます。
この際、必ず音を実際に聞きながら調整することが重要です。ノイズ除去の量を増やしすぎると、本来の音声まで不自然になったり、こもった音になったりする可能性があります。ノイズの軽減と音質のバランスが最も良いと感じる位置を探しましょう。

ノイズ除去は「やりすぎない」のが鉄則です。完全にノイズを消し去ろうとすると、かえって不自然な音になり、視聴者に違和感を与えてしまいます。少しノイズが残っていても、メインの音声がクリアに聞こえる状態が理想的です。
5. 「オーディオを分離」してノイズ部分を削除・ミュートする応用技
Mac版iMovieでは、動画クリップからオーディオを分離し、ノイズが集中している特定の箇所だけを編集する高度なテクニックも可能です。タイムライン上の動画クリップを右クリック(またはControlキーを押しながらクリック)し、「オーディオを分離」を選択します。これにより、音声が独立したオーディオクリップとして表示されます。
分離されたオーディオクリップは、通常のオーディオファイルと同様にトリミングや分割が可能です。ノイズがひどい部分を細かく分割し、その部分だけを削除したり、音量をミュート(0にする)にしたりすることで、ノイズを目立たなくすることができます。ただし、メインの音声も含まれている場合は、この方法で音声が失われるため、慎重に適用しましょう。
ノイズ除去の前に確認すべきこと
ノイズ除去は編集段階での対処法ですが、最も効果的なのは「ノイズを入れない」ことです。録画・録音を行う前に、以下の点を確認しましょう。
- 録音環境の確認: エアコンや冷蔵庫、パソコンのファンなど、定常的に音を出す機器は可能な限り停止するか、録音場所から遠ざけましょう。
- マイクの選択: スマートフォンやカメラの内蔵マイクよりも、外部マイク(指向性マイクやピンマイクなど)を使用することで、周囲のノイズを拾いにくく、クリアな音声を録音できます。
【Mac版iMovie】イコライザ機能で音質を最適化する
イコライザ(Equalizer)とは、音の周波数帯域を調整し、音質を変化させる機能のことです。高い音や低い音など、特定の周波数帯の音を強調したり、逆に弱めたりすることで、音のバランスを整えたり、特定の音を際立たせたりすることができます。カーオーディオや音楽再生アプリにも搭載されているおなじみの機能です。
iMovieのイコライザは、細かな周波数調整を自分で行うのではなく、あらかじめ設定された「プリセット」の中から選ぶ形式になっています。これにより、初心者でも手軽にプロのような音質調整が可能です。
イコライザの適用メニュー
ノイズ除去と同様に、iMovieのプレビュー画面上部にある「ノイズリダクションおよびイコライザ」のメニューからイコライザの適用ができます。
イコライザプリセットから選択する
「イコライザ」の横に表示されているプルダウンメニューから、目的のプリセットを選択します。
iMovieの全イコライザプリセットと効果的な活用法
iMovieで選択できるイコライザプリセットの一覧と、それぞれの効果、おすすめの活用シーンをまとめました。
プリセット名 | 効果 | 活用シーン |
---|---|---|
フラット | イコライザを一切適用しない、ニュートラルな状態です。 | 元の音質が良い場合や、他の調整を優先したい場合。 |
ボイスエンハンス | 話し声の周波数帯を強調し、声をよりクリアで聞き取りやすくします。 | ナレーションやインタビュー動画、Vlogなど、声がメインのコンテンツ。 |
ミュージック強調 | 音楽トラック全体の音質を向上させ、より豊かなサウンドにします。 | BGMがメインのシーンや、音楽動画。 |
ラウドネス | 全体の音量を引き上げ、高音域と低音域を強調し、迫力のあるサウンドを実現します。 | アクションシーンや、動画に力強さを加えたい場合。 |
ハムリダクション | 電気的な「ブーン」というハムノイズを軽減または除去します。 | 録音時にハムノイズが混入してしまった場合。 |
低域増強 | 低周波数を増加させ、低音を強化します。 | 重厚感のあるサウンドにしたい場合や、男性の声を強調したい場合。 |
低音軽減 | 低周波数を抑えることで、低音を控えめにします。 | 音がこもって聞こえる場合や、女性の声をクリアにしたい場合。 |
高域増強 | 高周波数を増加させ、高音を強調します。 | 音に明るさや抜け感を出したい場合、女性の声を強調したい場合。 |
高域軽減 | 高周波数を下げて、高音を和らげます。 | 音がシャリシャリして耳障りな場合や、高音が強すぎる場合。 |

イコライザは、音の「化粧」のようなものです。元の素材の良さを引き出し、欠点を補うために活用しましょう。様々なプリセットを試して、あなたの動画に最適なサウンドを見つけることが大切です。
【iPhone/iPad版iMovie】ノイズ・雑音への対処法
Mac版iMovieには「背景ノイズを軽減」機能が搭載されていますが、残念ながらiPhone/iPad版iMovieには、直接的なノイズ除去機能は備わっていません。
しかし、モバイル版iMovieでも、ノイズを軽減するためのいくつかの対処法があります。
- 1. ノイズ部分のカット・削除: ノイズが特定の短い区間に集中している場合、その部分のオーディオクリップを分割し、削除することでノイズを取り除くことができます。
- 2. オーディオの分離とミュート: 動画クリップからオーディオを分離し、ノイズがひどい部分の音量をミュート(0にする)することで、ノイズを目立たなくする方法です。ただし、この方法はメインの音声も消してしまうため、BGMや効果音でカバーする必要があります。
- 3. 外部アプリの活用: より高度なノイズ除去が必要な場合は、iPhone/iPadで利用できる他の動画編集アプリや音声編集アプリのノイズ除去機能を活用することも検討しましょう。Google Pixelの「音声消しゴムマジック」のようにAIが自動でノイズを分析・除去する機能を持つアプリも登場しています。例えば、PowerDirector、VideoShow、VideoProc Converter、Media.io、AudioFixなどが挙げられます。
さらに動画の音質を向上させるための実践的ヒント
iMovieの機能だけでなく、以下のヒントを実践することで、動画の音質をさらにプロレベルに近づけることができます。
録音環境の最適化
最も重要なのは、録音する段階でできるだけノイズを入れないことです。
- 静かな場所での録音: 可能な限り、外部の騒音(車の音、工事の音、人の話し声など)が少ない場所を選びましょう。
- 防音対策の重要性: 部屋の反響音(エコー)を抑えるために、カーテンを閉める、毛布をかける、家具を配置するなど、簡単な防音対策を行うだけでも効果があります。
外部マイクの活用
スマートフォンやカメラの内蔵マイクは便利ですが、音質やノイズ耐性には限界があります。
- 指向性マイク: 特定の方向の音を重点的に拾い、周囲のノイズを軽減する効果があります。インタビューやVlog撮影に最適です。
- ピンマイク(ラベリアマイク): 話し手の口元近く