AviUtlは、その高い自由度と豊富な機能から、多くの動画クリエイターに選ばれている無料の動画編集ソフトウェアです。特に、写真、動画、テキストといった複数の素材を画面上に同時に表示し、自由に配置できる機能は、バラエティ番組のようなワイプ合成、魅力的なスライドショー、さらには複雑なプロモーション映像の制作において不可欠な要素となります。
このページでは、AviUtlを使って複数のオブジェクトを効果的に重ねて配置するための基本的な操作から、より高度な表現を可能にするテクニック、そしてよくあるトラブルの解決策まで、プロの動画クリエイターの視点から徹底的に解説します。あなたのクリエイティブなアイデアを形にするための実践的なヒントが満載です。
AviUtl「拡張編集」の基本を理解する:タイムラインとレイヤーの役割
AviUtlで複数の素材を扱う上で最も重要となるのが「拡張編集」ウィンドウです。このウィンドウは、動画、画像、テキスト、図形、エフェクトなど、あらゆる要素(オブジェクト)を時間軸と階層(レイヤー)で管理するための司令塔となります。拡張編集画面は、タイムライン・レイヤー・シーンという3つのエリアで構成されています。
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タイムラインとレイヤーの概念
拡張編集ウィンドウは、横軸が時間、縦軸がレイヤー(層)で構成されています。各レイヤーにオブジェクトを配置することで、動画のどのタイミングで、どの素材を、どのように表示するかを細かく制御できます。レイヤーは、透明なシートを何枚も重ねていくイメージです。下のレイヤーにあるオブジェクトほど、画面上で手前(前面)に表示されるというルールを覚えておきましょう。
AviUtlの拡張編集は、まるで絵を描くキャンバスと絵の具のような関係です。レイヤーを使いこなすことで、あなたの頭の中にある複雑な映像表現を具現化できます。
オブジェクトの追加方法
拡張編集ウィンドウに写真や動画などの素材を追加するには、ファイルを直接タイムラインにドラッグ&ドロップするのが最も手軽な方法です。また、タイムラインの空いている場所で右クリックし、「メディアオブジェクトの追加」から「動画ファイル」「画像ファイル」「テキスト」などを選択して追加することも可能です。

動画や画像を読み込む際は、対応していないファイル形式の場合があります。その際はL-SMASH Worksなどの入力プラグインの導入を検討しましょう。
オブジェクトの「位置」を自由自在に調整する
追加した写真や動画などのオブジェクトは、プレビュー画面上で直感的に位置を調整できます。これにより、思い通りのレイアウトを素早く作成することが可能です。
プレビュー画面でのドラッグ操作
オブジェクトの中心付近をマウスでドラッグするだけで、画面上の好きな位置に移動させることができます。
- 真横や真上に正確に移動したい場合は、キーボードのShiftキーを押しながらドラッグすると、水平または垂直方向に固定して移動できます。
設定ダイアログでのX, Y, Z座標調整
より細かく、数値で位置を調整したい場合は、オブジェクトを選択した際に表示される「設定ダイアログ」を利用します。このダイアログには「X」「Y」「Z」の項目があり、それぞれ横方向、縦方向、奥行き方向の位置を数値で指定できます。

大まかな配置はプレビュー画面でのドラッグ、ピクセル単位の正確な調整やアニメーションの起点設定には設定ダイアログの数値入力が最適です。
オブジェクトの「大きさ」を思い通りに変更する
オブジェクトのサイズ変更も、位置調整と同様にプレビュー画面と設定ダイアログの両方から行えます。
プレビュー画面でのAltキー+ドラッグ操作
プレビュー画面上でオブジェクトの四隅や辺をドラッグすることでサイズを変更できますが、この際、キーボードのAltキーを押しながらドラッグすると、マウスの操作が位置変更ではなくサイズ変更に切り替わります。これにより、直感的にサイズを調整できます。
設定ダイアログでの「拡大率」調整
設定ダイアログには「拡大率」の項目があり、数値を入力することでオブジェクトのサイズをパーセンテージで指定できます。縦横比を固定して拡大・縮小したい場合は、拡大率の横にあるチェックボックス(「縦横比を固定」など)を確認しましょう。
- Altキー+ドラッグで大きさの変更ができます。
- 設定ダイアログから「拡大率」の項目を操作しても大きさの変更ができます。
重なり順序をマスターする:レイヤーの基本ルール
複数の素材を画面上に配置する際、どの素材が手前に表示され、どの素材が奥に表示されるかを決定するのが「重なり順序」です。AviUtlでは、この重なり順序はレイヤーの配置によって決まります。
「レイヤー番号」と表示順の関係
AviUtlの拡張編集では、レイヤー番号が大きいものほど(タイムラインの下に配置されているものほど)、画面上で前面に表示されます。つまり、最前面に表示したい素材は、タイムラインの一番下のレイヤーに配置する必要があります。
- レイヤー番号が高いものが画面上では前面に表示されます。
レイヤーの移動と整理方法
タイムライン上でオブジェクトを上下にドラッグすることで、レイヤーの重なり順序を簡単に変更できます。 また、レイヤー上で右クリックすると、「レイヤーの挿入」や「レイヤーの削除」といったメニューが表示され、レイヤーの追加や削除、名前の変更なども行えます。

オブジェクトが増えてきたら、レイヤー名を変更したり、不要なレイヤーをロックしたり非表示にしたりすることで、作業効率が格段に向上します。
複数オブジェクトを効率的に扱う応用テクニック
AviUtlには、複数のオブジェクトをまとめて操作し、編集作業を効率化するための便利な機能が備わっています。
「座標のリンク」で複数のオブジェクトを連動させる
「座標のリンク」は、同じレイヤー上にある複数のオブジェクトの位置や拡大率を連動させたい場合に非常に役立つ機能です。例えば、複数の図形やテキストをまとめて移動させたい時などに便利です。
座標のリンクを設定するには、対象のレイヤー名を右クリックし、「座標のリンク」を選択します。これにより、そのレイヤー上の全てのオブジェクトが連動して動くようになります。ただし、動かしたくないオブジェクトはそのレイヤーに置かないように注意が必要です。
「グループ制御」で複雑な動きも一括管理
「グループ制御」は、複数のレイヤーにまたがるオブジェクトを一つの塊として扱い、まとめて移動、拡大縮小、回転、エフェクトの適用などを行いたい場合に使う強力な機能です。 例えば、複数の画像とテキストで構成されたタイトルロゴ全体をアニメーションさせたい時などに活用できます。グループ制御オブジェクトは、グループ化したいオブジェクトの上位レイヤーに配置し、「対象レイヤー数」で適用範囲を指定します。

複雑なレイアウトやアニメーションには「グループ制御」が必須です。特に、複数の要素が連動して動くシーンでは、グループ制御を使うことで圧倒的に作業効率が向上します。

表現の幅を広げる「合成モード」の活用
「合成モード」は、重なり合うオブジェクトの色をどのように混ぜ合わせるかを設定する機能です。これを活用することで、単に素材を重ねるだけでは表現できない、光の表現や独特の質感、透明感などを生み出すことができます。
合成モードとは?
合成モードは、下のレイヤーの映像と上のレイヤーの映像が重なる部分の色を、特定の計算式に基づいて合成するための設定項目です。設定ダイアログの左下にあるドロップダウンリストから選択できます。
主要な合成モードの種類と効果
AviUtlには様々な合成モードがありますが、代表的なものをいくつかご紹介します。
- 通常:色が合成されず、通常通り映像を重ねるだけになります。
- 加算:重なる映像の色のRGB値を足し合わせることで、全体的に明るく、光が当たったような表現になります。
- 乗算:重なる映像の色のRGB値を掛け合わせることで、全体的に暗く、影のような表現になります。
- スクリーン:加算と似ていますが、より明るい部分が強調され、光が透過するような表現に適しています。
- オーバーレイ:乗算とスクリーンを組み合わせたような効果で、コントラストを強調しつつ、下のレイヤーの色味も残します。
合成モードは、特にエフェクトやテクスチャ素材を重ねる際に真価を発揮します。例えば、炎のエフェクトを「加算」で重ねることで、よりリアルな炎の表現が可能です。また、下のレイヤーの合成モードを設定することで、より意図した効果を得られます。
実践!AviUtlで魅力的な多重レイアウトを作成する
ここまで学んだ知識を活かして、実際に様々な多重レイアウトを作成してみましょう。AviUtlの機能を組み合わせることで、あなたのアイデアは無限に広がります。
ワイプ合成の作り方
バラエティ番組でよく見かけるワイプ(ピクチャーインピクチャー)は、動画や画像の小窓をメイン映像に重ねることで実現します。メインの動画を下のレイヤーに配置し、ワイプとして表示したい動画や画像を上のレイヤーに配置します。その後、ワイプのオブジェクトの位置とサイズを調整し、必要に応じて「ワイプ」エフェクトを適用することで、登場・退場の演出を加えることができます。 ワイプの種類は、AviUtlフォルダ内の「transition」フォルダにモノクロPNG画像を追加することで増やすことも可能です。
写真コラージュ・スライドショーの効率的な作成
たくさんの写真を同時に表示するコラージュや、写真が次々と切り替わるスライドショーも、AviUtlで手軽に作成できます。特に多数の画像を扱う場合、一つずつ読み込むのは大変です。AviUtlには、複数の画像をまとめて読み込むための便利な方法(.exoファイルを利用するなど)がありますので、活用しましょう。
スライドショーでは、写真の配置だけでなく、切り替え時のエフェクト(シーンチェンジ)やBGMの選定も重要です。写真一枚一枚の表示時間や、次の写真への移り変わりを意識することで、より感動的な作品に仕上がります。

動画とテキストの組み合わせ
動画の上にテキストを重ねることで、情報伝達力を高めたり、デザイン性を向上させたりできます。テキストオブジェクトを追加し、フォント、サイズ、色、位置、アニメーションなどを調整することで、プロフェッショナルな印象を与えることができます。

テキストが表示されない場合は、背景と同化していないか、レイヤーの重なり順が正しいか、フォントが正しくインストールされているかを確認しましょう。
デザインのヒントとアイデア
複数の素材を重ねる際は、単に配置するだけでなく、全体のバランスや視線の誘導を意識することが重要です。例えば、以下のような点を考慮してみましょう。
- 余白の活用:情報を詰め込みすぎず、適度な余白を設けることで、見やすく洗練された印象になります。
- 色の統一感:使用する素材の色味を合わせることで、全体に統一感が生まれ、プロフェッショナルな仕上がりになります。
- 視線の流れ:視聴者の視線が自然に流れるように、重要な要素を配置する。
- 奥行きの表現:拡大率やZ座標、ぼかしエフェクトなどを活用し、奥行き感を出すことで、より立体的な映像になります。
背景に紙や布を置いたかわいいスライドショー、結婚式のエンドロール、バラエティ番組のオープニングのような人物紹介、映画予告編風の動画など、複数の素材を使ったレイアウトが作れるようになると、制作できる映像の種類が一気に広がります。ぜひ、様々な映像作品にチャレンジしてみてください。
よくあるトラブルと解決策
AviUtlで複数のオブジェクトを扱う際に遭遇しやすいトラブルとその解決策を知っておくことで、スムーズな編集作業につながります。
オブジェクトが表示されない、重なり順がおかしい
最も多い原因は、レイヤーの重なり順序の誤解です。タイムライン上でオブジェクトが意図したレイヤーに配置されているか、また、レイヤー番号が正しいかを確認しましょう。 また、オブジェクトの表示範囲(開始フレームと終了フレーム)がタイムライン上で適切に設定されているかも確認が必要です。 テキストが表示されない場合は、テキストの色が背景と同化していないか、使用しているフォントが正しくインストールされているかも確認しましょう。

動作が重い場合の対処法
多数のレイヤーや高解像度の素材を扱うと、AviUtlの動作が重くなることがあります。以下の対策を試してみてください。
- プレビューの画質を下げる:「設定」メニューから「画像処理を間引いて表示」にチェックを入れることで、動作が軽くなります。
- 不要なオブジェクトやエフェクトを削除・非表示にする:作業中のレイヤー以外を非表示にしたり、一時的にエフェクトを無効にしたりするのも有効です。
- キャッシュをクリアする/キャッシュサイズを上げる:AviUtlのキャッシュサイズを上げることで、重い状態を軽減させることができます。
- 素材を最適化する:読み込む動画や画像のファイルサイズを事前に小さくリサイズしておくことで、動作が軽くなります。
- PCのスペックを確認する:根本的な解決には、より高性能なCPUやGPU、大容量のメモリが必要になることもあります。
- 最新バージョンやプラグインの導入:AviUtl本体や関連プラグイン(patch.aul, InputPipePlugin, LuaJITなど)を最新バージョンにすることで、動作が改善される場合があります。

動作が重いと感じたら、まずは「画像処理を間引いて表示」を試すのがおすすめです。それでも改善しない場合は、キャッシュ設定や素材の最適化を検討しましょう。

まとめ:AviUtlであなたのクリエイティブを解き放つ
AviUtlで写真や動画を複数重ねて配置する技術は、動画編集の基礎でありながら、クリエイティブな表現の幅を大きく広げる重要なスキルです。レイヤーの概念を理解し、位置やサイズの調整、重なり順序の管理、そして「座標のリンク」や「グループ制御」、「合成モード」といった応用テクニックを習得することで、あなたはより複雑で魅力的な映像作品を生み出すことができるでしょう。
最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、実際に手を動かし、様々な素材を組み合わせて試行錯誤を繰り返すことで、AviUtlの奥深さと楽しさを実感できるはずです。このガイドが、あなたのAviUtlでの動画制作をさらに豊かなものにする一助となれば幸いです。